TREND半導体業界トレンド情報
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業界トレンド情報 第四十九弾 トランプ氏の政策による半導体市場への影響について

1.大統領再就任とともに示された“テック・ウォール”再強化
ドナルド・トランプ氏は2025年1月20日、米国大統領に再度就任した。
前政権以上に強硬な「アメリカ・ファースト」路線を推進し、内政・外交・経済・社会政策の各分野で大規模な変革を進めている。
特に、中国を名指しした通商・安全保障重視路線を一段と先鋭化させた。
2025年5月には、米国商務省産業安全保障局(BIS)がHuaweiのAIチップ「Ascend」シリーズに関する新たな指針を発表。
Ascend 910B、910C、910Dを含む特定のチップが米国由来の技術やソフトウェアを使用して設計・製造された可能性が高く、これらのチップの使用が米国の輸出管理規則(EAR)に違反する可能性があると警告した。
世界の通信事業者や関連企業に対し、これらのチップの使用停止を要請している。

一方、中国は「第14次五カ年計画」に基づき、成熟ノードを中心とするロジックやパワー半導体の製造拠点を多数建設しており、設備投資やウエハ生産能力の面で存在感を高めつつある。
米中双方が輸出規制やサプライチェーン再構築を進める中で、技術や調達網の分断が進み、半導体分野における陣営化の傾向が強まりつつある。
2.AI半導体輸出規制の撤回
トランプ第2期政権は2025年5月13日、バイデン政権期に導入されたAI半導体輸出規制を正式に撤回した。
同規制は、AI半導体の輸出先となる国・地域を3つのカテゴリー(ティア1〜3)に分類し、それぞれのカテゴリーに応じた制限を課する仕組みで、同月15日に発効される予定となっていた。
中東諸国など、友好国であるにも関わらずティア2に分類されるケースもあり、それらの諸外国やNVIDIA、Oracleなどといった大手メーカーからの大きな反発を招いていた。
トランプ政権は今後、AI半導体輸出に対する新たなアプローチを策定する模様だ。
米商務省は、「トランプ政権は信頼できる外国と協力して、米国のAI技術に関する包括的な戦略を進めつつ、敵対勢力の手から技術を遠ざける方針」との旨を発表している。
同盟国との連携を強化し、中国に対する制限を重視するスタンスに転換した。

3.CHIPS法見直しへ
米国では、半導体産業の強化と科学技術分野の振興を目的とした「CHIPS法」(CHIPS and Science Act)が2022年8月に成立している。
総額2,800億ドルと大規模な予算が確保されており、このうち5年間で合計527億ドルが半導体産業支援に投じられる計画だ。
このような多額の補助金を「無駄な産業政策」と批判する保守派の声が強まり、トランプ大統領自身も「補助金は無駄、むしろ財政赤字の削減に回すべき」との姿勢を表明。
2025年3月には、議会にCHIPS法を廃止するように訴えた。
ただし、CHIPS法そのものは超党派支持が厚く、全面廃止となる可能性は低い。
また、トランプ大統領も国内半導体製造は依然重要との認識も示している。
現状では、補助金契約の条件見直しが進んでおり、これを受けて一部の補助金の支払いが保留されている模様だ。
2025年4月には、大統領令で商務省内に「米国投資加速室(United States Investment Accelerator)」を新設すると発表。
CHIPSプログラム室の運営を引き継ぐものとなっており、手続きの迅速化や企業との再交渉窓口の一元化が可能となる。
加えて、CHIPS法に基づく補助金交付契約の見直し権限を商務長官に付与した。
4.市場インパクトと今後のシナリオ
今回のトランプ第2期政権による対中強硬策と支援制度の再構築は、短期から長期にわたって半導体市場に複雑な影響を及ぼす可能性が高い。
まず短期的には、米国の半導体製造装置やEDA(電子設計自動化)ソフトウェアの主要企業において、中国市場向けの売上が縮小するとの見方が広がっている。
ただし、こうした動きにより、東南アジアやインドなど中国以外の地域への設備投資が活発化しており、新たな受注の獲得により回復基調に転じる企業も出てくるとみられる。
中期的には、CHIPS法に基づく補助金スキームがトランプ政権下で見直される可能性が浮上しており、これによって国内で計画されていた大規模な半導体製造工場の建設時期が後ろ倒しになる懸念がある。
仮に複数の案件が遅延すれば、2027年から2028年にかけて米国国内の先端ノードの供給力に空白期間が生じる可能性があり、その間に韓国や台湾の企業が再びシェアを拡大するというシナリオも考えられる。
さらに長期的に見ると、米国による輸出規制がAI用半導体にとどまらず、量子コンピューティング向けチップやパワー半導体などにも広がっていく場合、世界の半導体市場は米国と中国を中心とした異なる技術圏に分かれる可能性がある。
こうした環境下では、各陣営が個別に設備投資や技術開発を進めることとなり、結果として一部で非効率な重複投資が生じる懸念もある。
また、国際的な技術標準の整合が難しくなり、業界全体としての革新のペースに影響が及ぶ可能性も指摘されている。
一方で、EV(電気自動車)や生成AIなど新たなアプリケーション領域における需要は引き続き堅調と見られ、企業には地政学的リスクを見据えたサプライチェーンの再設計や、地域ごとの顧客基盤に応じた柔軟な運営体制の構築が求められるだろう。
安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「トランプ政権2期目の政策による半導体市場への影響」と題してアップさせて頂く。
政治的なコメントをするつもりは毛頭無いが、色んな意味でこれだけ有名になったアメリカ大統領はいないのではないだろうか?メディアにおいて顔を見ない日は無いくらい精力的に活動されており、その影響力たるや、世界中が日々固唾を呑んで見守るほどである。
その大統領が2期目として返り咲いた2025年1月から、早速内政・外交・経済・社会政策の各分野で大規模な変革を進めている。その変革の中で半導体市場においても大きな影響が出てきている訳だが、その内容が今回の記事となる。
やはり特出しすべきは「対中強硬政策」になるだろう。HuaweiのAIチップ「Ascend」シリーズの、世界の通信事業者や関連企業に対する使用停止要請であったり、米国AI技術の中国に対する制限強化だったりと激しく敵対化している。
また2022年8月に成立した「CHIPS法」における多額な補助金に対しても廃止を訴えており、多くの企業が計画変更をしなければならないなど大きな波紋を広げている。
これに対して、中国も「第14次五カ年計画」に基づき、成熟ノードを中心とするロジックやパワー半導体の製造拠点を多数建設しており、設備投資やウエハ生産能力の面で存在感を高めつつある。
米国の圧力に対し自国の技術力と資金力で対抗し、今や人型ロボット先進国になりつつもある。
世界の半導体市場が米国と中国を中心とした異なる技術圏に分かれる可能性が見えてきており、第3国の我が国としては難しい舵取りが要求されて来ている。
唯一願うとすれば、国際的な技術標準だけは整合統一して欲しいものだが、危うさが漂ってきている、、、。