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業界トレンド情報 第四十八弾  最新のパワー半導体市場動向

業界トレンド情報 第四十八弾  最新のパワー半導体市場動向

1.今後も高成長が予測されるパワー半導体市場

パワー半導体は、エネルギーやEV(電気自動車)、データセンターなどをはじめとした多くの分野で需要が拡大している。
富士経済の調査によると、2035年におけるパワー半導体の世界市場は、2024年比で2.3倍の7兆7,710億円規模に達する見込みだという。

中でも、次世代パワー半導体として、SiC市場が2035年に2024年比7.4倍の2兆9,034億円に、GaN市場が同7.7倍の2,787億円に拡大すると予測した。
酸化ガリウム市場も今後立ち上がり、2035年には149億円規模に達するとしている。

現況では、SiCが高耐圧・高出力で自動車と産業機器を、GaNが高周波・高速スイッチング領域でデータセンターや民生電源をそれぞれ担う構図が定着しつつある。

2.世界で相次ぐSiCの増産投資ラッシュ


上記のような状況において、各パワー半導体メーカーは需要拡大を見込み、SiCデバイスの生産能力増強に向けた大規模投資を加速している。

Infineon Technologiesは2024年8月、マレーシア・クダ州クルムにて200mmウエハーを用いるSiC専用工場(第3工場・フェーズ1)を開所した。
同工場には、当初20億ユーロを投じると発表。

その後、さらなる拡張計画(フェーズ2)も発表しており、今後5年間で最大50億ユーロを投資するとした。
同社発表によると、世界最大級の200mm SiCウエハー工場になるという。

Infineon Technologiesのマレーシア・クリム工場 出所:Infineon Technologies

その他では、onsemiが2024年6月、チェコ・ロジュノフに最大20億USDを投じ、垂直統合型SiC工場を立ち上げると発表。
2027年の稼働を目指すとしている。

また、2023年6月、STMicroelectronicsが中国・重慶でSanan Optoelectronicsと共同の200mm SiCジョイントベンチャーを組成すると発表。
2025年10〜12月に量産を開始する予定で、5年間で総額32億USDを投じる計画だ。

日本では、三菱電機が2023年3月、熊本県菊池市にSiC工場を建設すると発表した。
150mmおよび200mmウエハーに対応。約1,000億円を投じる計画で、2026年の量産開始を計画している。

調査会社のTrendForceによると、世界では14拠点の200mm SiC工場新設計画が進んでいるという(2024年10月時点)。
一方で、EVインバーター1台あたりのチップ使用量が増加傾向となっていることから、短期的な需給逼迫は今後も続くと指摘している。

200mm SiC工場建設計画マップ 出所:Trendforce

3.次世代パワー半導体の増産を支援する各国の政策

米国では、2022年に成立したCHIPS法(CHIPS & Science Act)の申請が2024年以降に本格化した。

トランプ第2期政権が発足し、CHIPS法補助金契約の条件見直しなどが進んではいるものの、2025年4月にはSiCウエハーやエピ成膜といった「クリティカル・マテリアル」を正式に控除対象へ拡張するSEMI Investment Actが超党派で再提出されるなど、支援の裾野が材料産業まで広がりつつある。

EUは、2023年に発効した欧州半導体法(European Chips Act)で総額430億ユーロ以上の公的資金投入を打ち出している。
また、EU加盟国による特別国家助成枠組「IPCEI Micro-II」でも、STMicroelectronicsやBoschのSiC・GaNプロジェクトが選定されており、再生可能エネルギーやe-モビリティをにらんだ次世代パワー半導体への投資が加速している。

中国は、2021年から2025年の5年間を対象として策定した国家中期計画「第14次五カ年計画」において、SiC・GaNを戦略重点技術に位置づけた。
国務院が設置した集成電路投資基金(二期目:約2,000億元)が装置・材料分野を含めて出資を拡大中だ。

また、地方でも大型誘致策が相次いでいる。
例えば、先述のSTMicroelectronicsとSanan Optoelectronicsによる200mm SiC合弁に対しても、重慶市が土地供与や税控除、低利融資を組み合わせたパッケージ支援を実施している。

韓国では、2025年2月に可決された「K-Chips Act」改正において、半導体設備投資控除率が中小企業で最大30%、大企業で最大20%、研究開発における税控除が中小企業で最大50%に拡大。
SiC・GaNを含めたパワー半導体も対象に明記された。政府は別途33兆ウォン規模の金融支援枠を創設しており、国内ファウンドリと材料メーカーの先端電力デバイス量産を後押しする方針を示している。

4.日本の政策支援と今後の展望


日本政府も、カーボンニュートラルと産業競争力の両立を掲げ、SiCやGaNへの転換を後押ししている。
政策パッケージは経済安全保障推進法に基づくサプライチェーン補助、NEDOグリーンイノベーション基金を核とする研究開発支援、税制・金融インセンティブの三層構造で組み立てられている。

経済安全保障推進法では、パワー半導体を「特定重要物資」と位置づけている。
2023年12月には、ロームおよび東芝デバイス&ストレージのSiC・Siパワー半導体供給計画を認定し、最大1,294億円を助成することを決定した。

さらに、2024年11月には、富士電機・デンソーなど8件を追加認定している。

NEDOグリーンイノベーション基金の下では、「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクト(予算総額1,376億円)が2022年に立ち上がった。
200mm SiC MOSFET・モジュール開発(ローム、東芝、デンソー)、低欠陥200mm SiCウエハー開発(オキサイド、レゾナックほか)、高周波GaNデバイス開発(東芝)などが採択されている。

加えて2025年度税制では、パワー半導体を含む「戦略分野国内生産促進税制」を創設し、量産装置投資額の15~20%を税額控除する方針が示された。

技術人材の確保や高い歩留まり量産への移行、さらにはGaN量産コストの低減が、日本勢が世界競争を勝ち抜く上での課題となる。

EV・再エネ・データセンターという三大成長軸は今後も揺るがないものとみられ、2025~2030年はSiCの量産化とGaNの本格普及が同時進行する5年間となりそうだ。
製造技術やエコシステム強化を先行させる企業が、次世代エネルギー社会の優位を確立すると期待される。

5.中国勢の台頭による勢力図の変化

近年、中国におけるSiCパワー半導体の国産化と量産体制の整備が急速に進んでいる。
中央政府および地方政府の支援を受けて複数の大規模工場が稼働を開始しており、中でもYOFC Advanced Semiconductorが武漢にて立ち上げたSiCウエハー工場は、国内需要の3割を供給できると一部で報じられた。

また、価格面でも国際競争力を高めており、従来1,500ドル前後で取引されていた6インチSiCウエハーが300〜500ドル台で供給されるなど、グローバル市場における価格形成にも影響を及ぼし始めている。

こうした中、米国の大手SiCメーカーであるWolfspeedは、巨額の投資負担や補助金の支給遅延、SiC需要の一時的な停滞などが重なり、財務基盤が大きく揺らいでいる。

2025年5月には、連邦破産法第11章(チャプター11)に基づく破産申請を準備中との報道がなされ、業界に波紋を広げた。
同社はSiC分野の先駆者として高い技術力を有してきたが、急速な市場構造の変化が大手企業の存続にも影を落とし始めている。
中国勢の台頭と米国メーカーの苦境という対照的な構図は、今後のパワー半導体市場の勢力図を左右する重要な要素となっている。

安部’s EYE

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「最新のパワー半導体市場動向」と題してアップさせて頂く。

ここに来て一時の盛り上がりが影を潜めているパワー半導体市場であるが、世界的市場では今後10年間で2.3倍を超える成長が見込まれている。

その中でも、次世代パワー半導体と言われるSiCやGaN市場は7倍超、酸化ガリウムもこれから大幅な伸びが予測されている。

適用用途としては、SiCが高耐圧・高出力で自動車と産業機器を、GaNが高周波・高速スイッチング領域でデータセンターや民生電源をそれぞれ担うと言う構図が定着しつつある。

このような状況に伴い、各パワー半導体メーカーの生産能力増強に向けた大規模投資について最新の情報を記載しているのが今回の記事となる。

次世代パワー半導体の中でもSiC向けの増産投資は著しく、Infineon Technologies、onsemi、STMicroelectronicsを筆頭に、世界で14拠点の200mm SiC工場新設計画が進んでいるという。

大型投資に対しては各国とも政策支援を打ち出しているが、既にレッドオーシャンになりつつあるSiC分野において勝ち組になるには、熾烈な争いを避けては通れないと思う。

記事にもあるが、近年の中国におけるSiCパワー半導体への注力は凄まじく、従来の1/3~1/5の価格を実現して来ておりグローバル市場における価格形成にも影響を及ぼし始めている。

SiC業界で先頭を走ってきた米国大手Wolfspeedの破産申請準備中との報道は驚きであり、SiC市場においても早くも“マネーゲーム”の様相を呈して来ている警告だと思われる。

半導体産業は巨額な投資が絡むだけに、産・官・金の綿密な連携がカギを握ると言うことは度々発信してはきたが、これからはもう少しターゲットを絞った半導体市場に特化するやり方が必要な時期に来ているのではないだろうか?

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