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業界トレンド情報 第五十一弾  AIデータセンターの市場・競争環境

業界トレンド情報 第五十一弾  AIデータセンターの市場・競争環境

1.拡大するAIデータセンター市場

生成AIの急速な普及を背景に、AI処理に特化したデータセンター(以下AI-DC)への投資が世界規模で進んでいる。

調査会社Markets and Marketsの試算によると、AI-DC関連ビジネスの市場規模は2025年の約2,300億ドルから2030年には9,300億ドルを超え、年平均成長率は30%を上回る見通しだ。

また、同じく調査会社のDell’Oro Groupによると、2025年1~3月期の世界データセンター設備投資額が前年同期比で53%増加しており、1,300億ドルを超えたという。急拡大する生成AIや大規模言語モデル(LLM)の需要がこの投資増を支えている。

米国、欧州、中国、日本といった主要国では、AI-DCを軸にした競争が加速している。
GPUや専用AIアクセラレータの確保、電力や冷却手法の革新、さらにはデータ主権やセキュリティをめぐる規制対応が、競争の焦点となっている。

2.米国ハイパースケーラーの巨額投資

AI-DC投資を牽引するのは、米国の大手ハイパースケーラーだ。
調査会社のLean Researchは、Amazon(AWS)、Microsoft、Alphabet(Google)、Metaの4社が、2025年に前年比52%増となる合計3,450億ドル超の設備投資を行うと予測した。

Amazon(AWS)は、AIインフラ拡張に向けてノースカロライナ州に100億ドル、ペンシルバニア州に200億ドルを投じると発表した。
AI-DC向け投資全体では、1,000億ドル程度に上るものとみられる。
Microsoftは2025年度のデータセンター関連支出を800億ドル規模としており、AIインフラの拡張を最優先課題に挙げた。

出所:Amazon

Alphabet(Google)は設備投資計画を従来の750億ドルから850億ドルに引き上げ、独自AIチップ「TPU」シリーズの生産能力強化に注力する構えだ。

さらにMetaは、1GW級の巨大クラスター構想を複数打ち出しており、2025年の投資額が650億ドル程度に達する見込みとなっている。

これらの企業は、NVIDIA BlackwellやHopperシリーズなどの最新GPUの大量確保に動いており、需要が供給を大きく上回っている。
そのため、各社は自社設計のASICやチップレット技術の導入を加速し、NVIDIA依存から脱却しようとしている。

3.中国の「東数西算」と国産化路線

中国では、国家戦略として「東数西算」プロジェクトが進行中だ。

これは東部のデータ需要と西部の再生可能エネルギー資源を結びつける計画で、現在10ヶ所程度の大規模データセンター群が稼働している。
総ラック数は140万を超え、全体稼働率は60%台にまで上昇した。

また、米国による先端半導体輸出規制に対応するため、HuaweiやBirenなどの中国企業を中心に「Model-Chip Ecosystem Innovation Alliance」が設立された。
国産GPUやAIモデルの自給体制構築に向けて、チップとモデル、インフラを一体化した国内AIエコシステムの構築を本格化させている。

中でもHuaweiは2025年7月、AIコンピューティングシステム「CloudMatrix 384」を一般公開した。
NVIDIAの「GB200 NVL72」を上回る性能を有しているとも一部で報じられている。

CloudMatrix 384  出所:Huawei

4.欧州と日本の動向

欧州連合(EU)もAI-DCに対する巨額投資を進めている。
2025年には「InvestAI」構想を発表し、総額2,000億ユーロを投じてAI専用データセンターおよびクラウド基盤を整備する計画だ。
ドイツやフランスではGAIA-Xプロジェクトを通じてデータ主権を確立し、米中への依存度を低下させることを狙っている。

日本では、産業技術総合研究所(AIST)が設計・開発した「ABCI 3.0」が2025年1月に一般提供を開始した。
NVIDIA H200 GPUを8基搭載したサーバーを392台使用し、AI・機械学習ワークロード向け性能ベンチマーク「HPL-MxP」で性能を測定。

演算性能2.3628エクサフロップスを記録している。
2025年6月時点で世界4位、国内1位だという。
TOP500ベンチマークでは世界15位、国内2位となった。

ABCI 3.0  出所:産業技術総合研究所(AIST)

その他では、NTTやソフトバンクも国内外で大規模なAIインフラ投資を進めており、電力効率化や液浸冷却技術(サーバーを液体で効率的に冷却する技術)を導入する事例が増加している。

5.今後の展望

AI-DC市場は今後さらなる急拡大が見込まれる一方で、課題も多い。
GPUや電力の供給制約、コスト上昇、環境規制への対応が、企業の投資判断を難しくしている。

ただし、液浸冷却技術や、NTTが開発を進めるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)に代表される光電融合インフラなどの技術革新が進めば、運用コストを大きく低減できる可能性もある。

世界各国は、生成AIや自動運転、スマートシティといった成長分野で主導権を握るべく、AI-DCを戦略的拠点と位置付けている。

今後の市場競争は単なる設備投資の規模ではなく、エネルギー効率、AIアクセラレータ供給網、データ主権確保といった複合的要素が勝敗を決めるものと予測される。

AI-DC市場は、AI時代の新たなインフラ競争の最前線にある。
GPU供給や電力制約といった課題を克服できるかが、企業や国家の競争力を左右する重要な要素となっている。

安部’s EYE

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「AIデータセンターの市場・競争環境」についてアップさせて頂く。

記事にあるが、AI-DC関連ビジネスの市場規模は2025年の約2,300億ドルから2030年には9,300億ドルを超え、年平均成長率は30%を上回る見通しだと言う。
この成長率は異常としか言いようがなく、完全に企業間競争を超越したものになっている。

この業界トレンド情報では半導体に関する記事の掲載を続けているが、これほどまでに巨額で急激な成長市場は無かったのではないだろうか。

米国の大手ハイパースケーラーであるAmazon(AWS)、Microsoft、Alphabet(Google)、Metaの各社が、それぞれ1,000億ドル規模の設備投資を行うようだが、この金額は一般の国の国家予算並みであり、既に異次元の領域になっていることがお分かりだろう。

AIチップにおいてはNVIDIAが圧倒的なスピードでシェアを伸ばしているが、当然各社ともにNVIDIA依存からの脱却は視野に入れており、末恐ろしい戦いが繰り広げられるのは必至である。

AI-DC関連市場の覇権争いの為に各国が凌ぎを削っている訳だが、中国では国家戦略として「東数西算」プロジェクトが進行中であり、欧州連合(EU)では「InvestAI」構想が発表され米中への依存度を低下させることを狙っている。

それぞれに国家主導で明確な戦略を立てた上で進めていることが実現を予感させる訳だが、日本も早急に明確な国家戦略を打ち上げて欲しいと願うはかりだ。

AI市場は技術革新と相まって日々とてつもないスピードで進化しており、止まることの無い市場になっていくことは間違いないと思われる。

我が国も新たなリーダーの下、官民一体となり国際競争を勝ち抜かなければならない訳だが、新たなリーダーには、技術に真正面に向き合い、出口戦略を明確にした上で、的確な指示を矢継ぎ早に出す姿勢に期待したい!

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