TREND半導体業界トレンド情報
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業界トレンド情報 第十一弾『海外大手半導体メーカーのパワー半導体戦略』
1. 海外パワー半導体メーカー
前回は、パワー半導体を手掛ける国内大手メーカーの事業戦略を紹介した。
今回は海外の大手パワー半導体メーカーとして、Infineon Technologies、ON Semiconductor、STMicroelectronicsの事業戦略を見ていきたい。
2. Infineon Technologies
Infineon Technologies(以下、Infineon)はドイツの大手半導体メーカーで、特にパワー半導体の売上高では世界トップシェアを占める。
2020年4月には米Cypress Semiconductorを90億ユーロ(約1兆1,500億円)で買収し、企業規模をさらに大型化した。
アプリケーション別では車載向けが最も大きな売上となっており、2021年度(2020年10月〜2021年9月)ではパワー半導体を含めた全売上高のうち44%を占めた。
その他ではパワー&センサーが29%、産業向けパワーコントロールが14%、通信セキュアが13%となっている。
パワー半導体関連では、SiCやGaNといった次世代パワー半導体に近年力を入れており、自社のSiC製品を「CoolSiC」、GaN製品を「CoolGaN」と名付けている。
CoolSiCは1700V、1200V、650Vの製品に利用可能となっており、太陽光発電インバータやバッテリー充電、エネルギー貯蔵、モータードライブ、UPS、補助電源、SMPSといった用途をターゲットとしている。
CoolGaNは600Vまでの電圧範囲に対応しており、4G/5Gやデータコム、テレコム、Wi-Fiなどの民生用および産業用アプリケーションに加えて、携帯電話の充電アダプターやLEDドライバといった低消費電力アプリケーションに対応している。
Infineonは2015年、米International Rectifier(以下、IR)を約30億ドルで買収した。
IRはSiCやGaNに注力していた経緯があり、InfineonはIR買収によりこれらの製品ラインアップを拡充した。
また、2016年にはSiC MOSFETやSiCショットキーダイオードを手掛ける米Wolfspeed(米Creeの子会社)の買収を試みたが、こちらは対米外国投資委員会(CFIUS)が難色を示したことで破談に終わっている。
SiCデバイスを製造するにあたっては、原材料として特に6インチのSiCウエハの需給が逼迫していることが課題となっている。
このため、Infineonは安定的なSiCウエハの確保に努めており、2020年に米GT Advanced Technologies(以下、GTAT)とSiC結晶供給契約を締結した。
また2021年には、昭和電工とエピタキシーを含めたSiC材料の供給契約を締結している。
3. ON Semiconductor
米国の大手半導体メーカー・ON Semiconductor(以下、ON)は、パワー半導体でInfineon Technologiesに次ぐ事業規模を有している。
2020年の売上高では、パワーソリューショングループ(PSG)が49.6%の売上を占めており、次いでアドバンストソリューショングループ(ASG)が36.4%、インテリジェントセンシンググループ(ISG)が14.1%となっている。
パワー半導体は、PSGの一部に分別されている。
PSGのアプリケーションは車載エレクトロニクス、産業エレクトロニクス、コンピューティング、通信となっている。
車載向けでは、EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)向けにSiCの採用が急速に進んでおり、注力製品に位置づけている。
また、コンピューティングにおいても、電源アダプタの小型化を図るべくSiCやGaNデバイスに力を入れている。
SiCデバイスの製造にあたっては、Infineonと同様にSiCウエハの安定調達を課題としている。
2021年8月には、GTATを4億1,500万ドルで買収すると発表した。
2022年上半期の買収完了を予定している。
GTATとはこれに先立つ2020年に、SiC材料の供給契約を締結していた。
GTATが5年間にわたり総額5,000万ドル相当のSiC材料をONに供給するという内容になっている。
また、ONは半導体の需要増を受けて、生産能力の増強を進めている。
2019年には、米GlobalFoundriesのニューヨーク・East Fishkill工場(Fab10)を4億3,000万ドルで買収すると発表した。
1億ドルは支払い済で、残りを2022年末に支払う予定となっている。
これにより、GlobalFoundriesは同工場でON向けの製造を開始しており、中耐圧や高耐圧のパワーMOSFETやIGBTなどが対象となっている。
さらにONは、2014年に富士通セミコンダクターの会津若松工場の8インチライン企業「会津富士通セミコンダクターマニュファクチャリング」に出資を開始しており、以降段階的に出資比率を高め、2018年には60%の株式を保有することで同社を子会社化した。
これにより、会津富士通セミコンダクターマニュファクチャリングは社名を「オンセミコンダクター会津」に変更している。
4. STMicroelectronics
スイスの半導体メーカー・STMicroelectronics(以下、ST)も、パワー半導体で世界的に大きなシェアを占めている。
同社の事業は車載・ディスクリートグループ(ADG)、アナログ・MEMS・センサーグループ(AMS)、マイコン・デジタルICグループ(MDG)の3区分に分かれており、売上比率はそれぞれ32%、38%、30%となっている(2020年度)。
STは、パワー半導体を含むADGにおいて、先述の2社と同様にSiCやGaNに注力する戦略を立てている。
2つの製造拠点でSiCデバイスを量産しており、今後も生産キャパシティを拡大する計画で、2025年の売上高10億ドルを目標に掲げている。
またGaNデバイスでは、台湾大手ファンドリのTSMCと提携しており、製品開発やエピタキシー技術の開発を進めている。
さらに2020年には、GaNデバイスを手掛けるExaganの株式の過半数を取得した。
Exaganはフランスのベンチャー企業で、8インチファブ向けにGaN-on-Si技術を用いたGaNパワースイッチを設計している。
STでも、SiCウエハの安定調達に向けた動きが見られる。
2019年には、Norstelの株式の過半数を1億3,750万ドルで取得した。
同社はスウェーデンの企業で、6インチのベアおよびエピタキシャルSiCウエハを製造していた。
その他、Wolfspeedやローム子会社のSiCrystalともSiCウエハの複数年供給契約を締結している。
安部’s EYE
今回の記事は、「海外大手半導体メーカーのパワー半導体戦略」について情報をアップさせて頂いた。
記事にある通り、Infineon Technologies、ON Semiconductor、STMicroelectronicsに代表される海外大手パワー半導体メーカーは、近年大躍進を遂げている企業である。
元々パワー半導体については、日本国内の企業が技術や製造、更には部材において世界的に強みを有していた分野であるが、今回ご紹介した企業はこの数年で一気に世界シェアを奪取しており、今後の動向についても要注目である。
近年の大躍進において興味深い共通事項としては、いずれの企業も大型の企業買収や部材の安定確保のための供給契約を既に完了させている点である。 更に各社ともに、デバイスの製造を、水平分業ではなく垂直統合で進めている点も興味深い。
各社のあるドイツ・米国・スイス各国内でも、勿論競合企業は存在しているとは思うが、各国内で圧倒的な規模を有し、各国を代表する企業であることが、前号の日本国内大手半導体メーカーとの違いかも知れない。
最後の砦となりかねないパワー半導体を、日本国内から失う事だけは絶対に避けなければならない! 産官学一体となった早急なる取り組みを、今こそ期待したい!