TREND半導体業界トレンド情報
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業界トレンド情報 第十六弾『TSMC進出により日本の半導体はどのように変わるか』
1.TSMC熊本工場建設の概要
ファンドリ企業で世界最大手の台湾TSMC社は2021年11月、熊本県に半導体製造を受託する子会社「Japan Advanced Semiconductor Manufacturing」(JASM)を設立し、熊本県菊陽町の第二原水工業団地にてファンドリ工場の建設を進めると正式発表した。
新会社に対しては、ソニーの子会社ソニーセミコンダクタソリューションズが約5億ドルを2年間にわたり段階的に出資する。
同社は、最終的にJASMの株式20%未満を取得することとなる。2022年1月には、初回出資を完了したと発表した。
また、デンソーも2022年2月、JASMに約3億5,000万ドルを出資し、同社の株式10%超を取得すると発表した。
JASMは2022年4〜6月に熊本工場建屋の建設に着手し、2023年9月に竣工、2024年末までに生産を開始する計画となっている。
当初は22/28nmプロセスによる製造を行うとしていたが、2022年2月には12/16nmプロセスにも対応すると発表した。
月間生産能力は55,000枚(12インチウエハ)を予定している。
熊本工場への設備投資額は約86億ドルに上る見込で、このうち日本政府が4,000億円程度の補助金を投入するとみられる。
2.TSMC進出による大規模な雇用促進
TSMCの熊本工場建設による影響としては、まず大規模な雇用促進が挙げられる。
同工場の従業員は1,700人に達する見込となっている。
このうちTSMCから300人が、ソニーから200人超が出向する。
残りは新規採用やアウトソーシングで賄うとした。
まずは2023年末までに1,200人程度の従業員を確保する予定で、今後段階的に採用を進め、台湾での技術研修を行う。
TSMCの熊本進出を受けて、熊本大学は2022年4月より「大学院先端科学研究部附属半導体研究教育センター」を設立すると発表した。
半導体の材料や性能などに関する基礎的な研究を進める「基盤研究部門」と、半導体の実装技術やシステムの応用を研究する「先端研究部門」を設置する。
11名の教授が所属し研究を進める予定で、国や県、半導体関連企業と連携して人材の育成を進める。
また、九州の高等専門学校(高専)においても、半導体人材の育成を進める計画となっている。
一部報道によると、熊本や福岡、大分、長崎、宮崎、鹿児島の九州6県に位置する高専8校にて、半導体開発などの教育課程を新たに実施する予定だという。
さらに、九州経済産業局が、半導体製造の人材育成に取り組む産官学の共同組織「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を2022年3月末に立ち上げる。
2022年2月には準備会合を開催した。
JASMやソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(熊本県菊陽町)、精密部品加工を担うピーエムティー(福岡県須恵町)などの11社・団体に加えて、熊本県や福岡県など九州7県、九州大学、九州工業大学などが出席している。
同コンソーシアムでは、人材の育成と確保、企業間の取引強化、海外との産業交流促進を図る。
2027年頃までの活動を予定している。
コロナ禍が未だ収束に至っておらず、国をまたいだ移動が依然制限される中、大規模な人材の確保が課題となっている。
国内では、TSMC以外にもキオクシアが三重県四日市市や岩手県北上市にて、Micron Technologyが広島県にてそれぞれ新棟の建設を進めている。
TSMCにとっては、いかに半導体人材を自工場に誘致するかが事業を進める上でのキーポイントとなるだろう。
3.国内での半導体製造体制を確立へ
TSMCが国内進出を果たすことで、一部の半導体製造を国内で完結できる体制が整うこととなる。
ソニーの半導体製造子会社・ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングは、熊本TEC(テクノロジーセンター)、長崎TEC、山形TEC、大分TECにてCIS(CMOSイメージセンサー)の製造を担っており、4工場のうち3工場が九州に集積している。
後工程はタイ工場でも行っているが、前工程は国内工場のみが担当する。
同社のCISはピクセル(画素)チップとロジック(回路)チップを貼り合わせた積層型となっており、ピクセルチップを上述の自社4工場で量産している。
一方で、ロジックチップは以前より全て海外のファンドリに製造委託している。
今回TSMCは、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの本社が位置する熊本TECの隣接地に熊本工場を建設することとなった。
熊本TECでは、CISの後工程も担っている。TSMCが熊本工場にてロジックチップの量産を開始することで、ソニーはピクセルウエハの前工程(熊本TEC)、ロジックウエハの前工程(TSMC熊本工場)、後工程(熊本TEC)と全工程を熊本で完結させることが可能となる。
現状では、ソニーのCISに適合したロジックチップを製造できるファンドリは日本に存在しない。
ピクセルチップを国内で製造したところで、何らかの事情によりロジックチップの海外調達が不可能となれば、CISを製造することができなくなる。
国内ではキオクシアに次ぐ半導体事業規模を有するソニーがCISの国内製造体制を確立することで、半導体業界の安定化、ひいては日本経済の安全保障に大きく寄与することとなるだろう。
また、今般の半導体不足を受けて、自動車業界は車載半導体を調達できず、自動車の減産を余儀なくされる状況に見舞われることとなった。
自動車に用いる40nm以降のロジックチップを製造できる企業も国内になく、海外からの調達に頼らざるを得ない状況となっている。
今回TSMCが熊本工場を設立することで、車載向けロジックチップも国内で調達することが可能となった。
デンソーが先述の通り出資を行い、JASMの少数株主となっている。
自動車産業は日本の基幹産業であり、部品を海外から輸入できないことで製造がストップしてしまうという状況は、国内経済にとってリスクとなっている。
国内自動車産業の保護という観点からも、TSMCの国内進出は大きな意味を有する。
安部’s EYE
今回の記事は、「TSMC進出により日本の半導体はどのように変わるか」について情報をアップさせて頂いた。
2021年6月に経済産業省より発表のあった「半導体・デジタル産業戦略」の一つの柱にあたるものが、今回の台湾TSMC社の誘致となる。
同社は言わずと知れた世界最大手のファンドリ企業であり、今回のTSMC進出は少なからず国内半導体業界においても大きなインパクトになるのは必至である。
日本政府が4,000億円超の巨額な補助金を出すことには賛否もあるだろうが、世界最大のCISシェアを持つSONYや、日本の基幹産業である自動車産業に必要となるロジックチップのサプライチェーン確保と言った観点では、非常に大きな有効打になることは間違いないことだろう。
一方で、記事にも人材のことが書かれているが、大規模な人員創出が必要となることで、九州圏内で人材の奪い合いや、人件費の高騰につながってくる恐れもあり、我々中小企業にとっては脅威であると同時に、早急なる対策を講じることが重要になってくるだろう。
今回のTSMC誘致を、日本半導体復活に向けた一過性の取り組みにさせない為にも、本業界に身を置く全ての企業が本気に技術向上に取り組み、更には政府の間髪入れない二の矢三の矢を放って頂くことを是が非でも期待したいところだ!