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需要が高まるGaNデバイスの特徴と市場動向

半導体業界トレンド情報(需要が高まるGaNデバイスの特徴と市場動向)

1. 窒化ガリウム(GaN)の特徴・性質

窒化ガリウム(GaN)は、ガリウム(Ga)の窒化物(N)であり、SiC(炭化ケイ素)やGaAs(ヒ化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)などと同様に化合物半導体として知られる。従来は青色LEDやレーザーダイオードの材料として広く用いられてきた。

GaNは、バンドギャップ(価電子帯の電子と伝導帯の電子とのエネルギー差)が、半導体に広く用いられているSi(シリコン)が1.1なのに対して3.4と高く、SiC(バンドギャップ3.3)と並んでワイドギャップ半導体と称される。

ワイドギャップ半導体の特長は、絶縁破壊電界強度や飽和ドリフト速度が高いことにある。高耐圧化や低損失化、スイッチングスピードの高速化、ひいてはデバイスの小型化などが可能となるため、次世代パワーデバイスなどでの用途が注目されている。

一方で、生産における歩留まりの低さなどからSiと比較してコストが高い点がネックとなり、これまでの市場形成は比較的緩やかなものとなっていた。しかし、近年の高まる需要や製造技術の進歩などから、今後の市場急成長が予測されている。

2. 急速充電器用途で採用が進むGaNパワーデバイス

GaNを用いたパワーデバイスはオン抵抗が低いため、例えばAC/DCアダプターに内蔵されるSiダイオードやトランジスタをGaNデバイスに置き換えることで、電力損失を抑えて発熱量を減少させ、機器そのものを小型化することが可能となる。

このため、直近ではスマートフォンやラップトップPC向けの急速充電器にGaNを採用するケースが増えており、市場形成が本格化してきた。

AnkerやAukey、RAVPowerといった中国のスマートフォンアクセサリ大手が相次いでGaNを用いた充電器を製品化しているほか、台ASUSのラップトップPC「ProArt StudioBook One」にもGaNを採用したACアダプターが同梱された。
GaNを用いることで、300Wと高出力ながら手のひらサイズにまで小型化している。

GaNを採用したUSB-C充電器「PA-D5」出典:Aukey

3. 5G通信基地局用途で需要が高まるGaN HEMT

また、5G通信基地局用途として、GaN HEMT(高電子移動度トランジスタ)の需要も高まっている。

5G通信やBeyond 5G通信では、一般にサブ6 GHz帯と呼ばれる6 GHz以下の周波数帯に加えて、28GHzや39GHzなどのミリ波帯と称される周波数帯の利用が想定されている。
しかし、サブ6 GHz帯で周波数が高い帯域やミリ波帯は、従来のSi トランジスタでは対応が難しい点が課題となっていた。

GaN HEMTは高周波領域で高い出力を得られるほか、低消費電力で発熱量が少なく、空冷ファンなどを省けるため、基地局を従来のものより小型化・軽量化することが可能となる。
5G向けのスモールセル基地局やMassive MIMO(多数のアンテナによりデータの送受信を行う無線通信技術)基地局、さらに4G向け基地局でも採用が拡大している。

4. GaNパワーデバイスの市場動向

市場調査会社の仏Yole Developpementが2020年3月に発表した市場予測によると、GaNパワーデバイスの市場規模は2021年1〜3月で2,000万USドルを超えるとみられる。

同社は、SiCパワーデバイスの市場規模が2021年通年で8億USドル程度と発表しており、比較するとGaNパワーデバイスの市場規模はまだまだ小さい。
ただし成長率は非常に高く、同社は四半期ごとに2ケタ成長すると見込んでいる。

GaNパワーデバイス世界市場推移
出典:Yole Developpement

また同じく調査会社の富士経済は、2020年6月に発表した世界パワー半導体の調査結果において、2030年時点のSiCパワーデバイスの市場規模が対2019年比で4.6倍と予測したのに対し、GaNパワーデバイスは同12.2倍に達すると予測した。

今後はハイエンドスマートフォンメーカーの純正充電器での採用や、自動車のDC-DCコンバータ、オンボードチャージャーなどでの採用が増加し、市場を牽引するとみられる。

5. GaNデバイスメーカーの動向

高まる需要に応えるべく、GaNデバイスメーカーは研究開発および生産能力増強を急いでいる。オランダNXP Semiconductorsは2020年9月、米国アリゾナ州チャンドラーにて150mmウエハを用いたGaNデバイスの製造工場を立ち上げると発表した。
5GやBeyond 5G通信向けのGaN RFパワーアンプを生産する計画で、2021年初頭のフル稼働開始を見込む。

また、GaNデバイスメーカー間での買収や業務提携なども活発に行われている。

スイスSTMicroelectronicsは2018年、米MACOMとGaN-on-Si(Si基板上にGaNを作製する技術)の共同開発を進めると発表した。
MACOMがGaN-on-Siの技術ライセンスを供与し、STMicroelectronicsが同技術を用いたRFパワー製品をMACOM向けに量産するほか、モバイル機器や無線基地局、関連した商用通信インフラ以外のRF市場で、STMicroelectronicsが独自のGaN-on-Si製品を製造販売する。

さらに両社は2019年、5G 通信の普及による需要増を見込み、GaN-on-Siの150mmウエハの生産能力を増強し、200mmウエハにも需要に応じて対応すると発表した。
またSTMicroelectronicsは、2020年2月にGaNデバイスの安定供給を目的として台TSMCとの協業を発表したほか、同年4月にはGaNデバイス専業メーカーの仏Exagan社を買収するなど、GaNデバイス関連で非常に活発な動きを見せている。

基地局向けGaNトランジスタ大手の住友電工デバイス・イノベーションは、GaNトランジスタの需給逼迫を受けて山梨事業所の大幅な生産能力増強を進めているほか、2018年にはSiCウエハメーカーの米II-VI Advanced Materialsと提携した。

米II-VI Advanced Materialsの米ニュージャージー工場にて、150mmウエハのGaN-on-SiC(SiC基板上にGaNを作製する技術)を用いたGaNトランジスタ専用の量産ラインを構築する計画で、2021年の量産開始を見込む。

SiCウエハメーカーで世界最大手の米Creeは、GaN-on-SiCを用いたGaNトランジスタを製造している。
2018年には、ドイツInfineon Technologies社のGaN-on-SiC技術を含むRFパワー事業を買収した。Cree子会社の米Wolfspeedの4Gおよび5G通信向け事業を強化する。

安部’s EYE

GaNはデバイスの特性上、急速充電器用途での使われ方が先ずは最も有望だろう。

現在多くの方が不満に思っているPCアダプターの大きさや重さは長年の課題であったが、今後はGaNの普及により一気に改善してくるだろう。
また高速通信の強みを生かした5G通信基地局用途も見逃せない。

今回のCOVID-19蔓延による副産物として、5Gへの移行スピードが加速してくることが予測される中で、5G通信基地局の早急なる設置は必要不可欠になって来ると思われる。

いずれも数量規模は莫大であり、生産現場における高効率化は絶対条件になって来る。

伴ってコストの追及は当然のことながら、通信インフラを担う製品分野になる為、品質の信頼性を疎かにすると大きなしっぺ返しとなるだろう。