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第3の次世代パワーデバイス材料・酸化ガリウム

1. 酸化ガリウム(Ga2O3)の特徴・性質

炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に次ぐ第3の次世代パワーデバイス材料として、昨今酸化ガリウム(Ga2O3)への注目がにわかに高まっている。

酸化ガリウムは、もともとLED基板などでの用途を見込んで研究されていた素材である。
バンドギャップ(価電子帯の電子と伝導帯の電子とのエネルギー差)が5.3eVとなっている。

そのため、半導体に広く用いられているシリコン(1.1eV)のみならず、ワイドギャップ半導体として注目されているSiC(3.3eV)やGaN(3.4eV)をも優に凌駕する。

バンドギャップが大きいと絶縁破壊電界強度や飽和ドリフト速度が高くなり、高耐圧化や低損失化、スイッチングスピードの高速化、ひいてはデバイスの小型化などが可能となる。
酸化ガリウムを用いることで、理論的にはSiCやGaNよりも低損失のパワーデバイスを作製できるため、次世代パワーデバイス材料として大きな期待を集めることとなった。

また、酸化ガリウムは、シリコンやサファイアと同様に融液からバルク単結晶を成長させられる。
このため、昇華法により気相成長させてウエハを製造するSiCや、シリコン・サファイア基板などの上にエピタキシャル成長させてウエハを製造するGaNと比較して、将来的にウエハ製造にかかるコストを低減できる可能性がある。

以上のような性質から、酸化ガリウムパワーデバイスは性能面とコスト面の双方で優位性が期待できるため、研究開発が意欲的に進められている。

経済産業省は、「省エネエレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」として、酸化ガリウムパワーデバイスの開発を含めた新世代のパワーデバイスおよび半導体製造装置の技術開発に対し、令和3年度の概算要求に21億3,000万円を新規で計上した。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じて、民間企業や大学などに技術開発を委託する。

2. 酸化ガリウムパワーデバイスの市場予測

市場調査会社の富士経済は、2020年6月に発表した世界パワー半導体の調査結果において、2030年時点の酸化ガリウムパワーデバイスの市場規模が590億円に達すると予測した。
GaNパワーデバイスの市場規模予測は同年で232億円となっており、酸化ガリウムパワーデバイスがGaNの約2.5倍の市場規模に達するという予測になっている。



出典:富士経済「世界のパワー半導体市場を調査」

同社は、コンシューマや通信分野での電源としての用途を皮切りに、産業用途などの高耐圧分野でも酸化ガリウムの採用が徐々に広がるとみており、2025年から2030年頃には車載や電装分野でも本格的な採用が開始するものと予測した。

3. 酸化ガリウムの研究開発動向

酸化ガリウムの研究開発では、ノベルクリスタルテクノロジーやFLOSFIA(フロスフィア)といった日本企業が先行している。
ノベルクリスタルテクノロジーは、タムラ製作所とNICT(情報通信研究機構)、東京農工大を中心とする研究メンバーの開発成果を基盤とするベンチャー企業である。2015年にβ型酸化ガリウムエピウエハを開発し、2017年には2インチのβ型酸化ガリウムエピウエハの量産を開始するとともに、酸化ガリウムSBD(ショットキーバリアダイオード)、酸化ガリウムエピ膜を用いたトレンチMOS型パワートランジスタの開発に成功した。

2インチエピウエハに加えて4インチのβ型単結晶基板を販売しており、6インチ基板の開発も進めている。今後は4インチエピウエハの品質を向上させ、量産ラインを立ち上げるほか、2022年度には酸化ガリウムSBDの量産を開始する計画となっている。


ノベルクリスタルテクノロジー製のショットキー電極付酸化ガリウム2インチエピウエハ
出典:ノベルクリスタルテクノロジー

FLOSFIAは京大発のベンチャーで、霧状にした溶液を用いる成膜技術「ミストドライ法」を独自に改善した「MISTEPITAXY」により、サファイア基板上に直径4インチのα型(コランダム構造)酸化ガリウム半導体層を形成することで、単結晶の作製に成功した。
SBDの試作にも成功しており、オン抵抗は0.1mΩcm2となっている。従来のSiCを用いたSBDと比較しても低抵抗となっており、電力変換モジュールの効率化、小型化に寄与することが期待される。
500V以上の耐圧を有しており、家庭用の電源用途にも対応する。

FLOSFIA製の酸化ガリウムSBD(試作品)
出典:FLOSFIA

またパワーデバイス以外では、NICTが2020年12月、無線通信向けの高周波酸化ガリウムトランジスタを開発したと発表した。
最大発振周波数が27GHzに達しており、同発表によると酸化ガリウムトランジスタでは世界最高だという。

無線通信では、実際に用いる周波数に対して少なくとも2?3倍の最大発振周波数が求められる。
今回の酸化ガリウムトランジスタは、衛星放送や携帯電話、無線LANなどで広く用いられる1?10GHzの周波数で利用できることとなる。

パワーデバイスと異なり、無線通信用途での酸化ガリウムトランジスタの研究は、これまでほとんど行われていなかった。
一方で、酸化ガリウムトランジスタは高温や放射線、腐食などに耐性を有しているため、同トランジスタを用いることで極限環境下でも無線通信機器を使用することが可能となる。

今後は極限環境に加えて、宇宙や地下資源探査などでの無線通信への応用も期待される。

安部’s EYE

酸化ガリウム(Ga2O3)は、日本パワーデバイスの“至宝”と言っても過言ではないと思う。

本年2月から当社ホームページで連載している「半導体業界トレンド情報」にて、パワーデバイス関連の情報をアップしているが、酸化ガリウム(Ga2O3)は、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)に次ぐ第3の次世代パワーデバイス材料として、非常に重要なデバイスである。

記事にある通り、Ga2O3の素材としての特性は、前者と比較しても群を抜くものであり、かつコスト面でも優位となれば、市場への普及は時間の問題であるが、技術面でクリアしなければならない課題が多く残っており、市場への投入タイミングが鍵となって来るだろう。

一方で技術ノウハウの機密化は最重要項目であり、国を挙げての取り組みと包括的な保護策をどう進めていくかは慎重に議論する必要があるだろう。

また研究開発に関係する費用面への支援についても、国として予算枠は確保しているようだが、適宜タイムリーに適用できる体制になることが関係者にとっては望まれる事だろう。