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業界トレンド情報 第三十弾『カーボンニュートラルへの半導体メーカーの取り組み』

1.国全体で2050年までのカーボンニュートラルを目指す日本

昨今、温室効果ガスの排出量増加による地球温暖化が危惧されており、世界的にCO2などの温室効果ガス削減への取り組みを進める動きが活発化している。
日本政府も2020年、温室効果ガスの排出を2050年までに全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言した。

「温室効果ガスの排出を全体としてゼロ」とは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量(人為的なもの)から植林、森林管理などによる吸収量(人為的なもの)を差し引き、合計を実質的にゼロにすることを意味する。

出所:環境省

出所:環境省

また、2021年には「カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表しており、その中で半導体・情報通信産業を重要分野に位置づけた。
「デジタル機器・産業の省エネ・グリーン化」を目指すとして、

  • パワー半導体等の研究開発、実用化、普及拡大
  • グリーンデータセンターの推進
  • エッジコンピューティング技術拡大

を今後の取組課題に挙げている。

このような状況下において、今回はカーボンニュートラルへの半導体メーカーの取り組みとして、半導体工場における温室効果ガス削減への取組事例を紹介したい。

2.効率的なエネルギー管理体制を構築

富士電機は、パワー半導体製造を担う山梨工場において、使用エネルギーを5年間で34%削減した。
平成28年度省エネ大賞の「経済産業大臣賞」を受賞している。

同工場では、電気や熱エネルギーを効率的に運用する仕組みを構築。
「見える化」「分かる化」「最適化」の3ステップでのエネルギー管理体制を構築した。

工場のエネルギーマネジメントシステム「FEMS」(Factory Energy Management System)を用いて、センサーで収集した実績データをさまざまな角度から分析。
加えて、AIを活用して直近のエネルギー需要を予測し、消費エネルギーを最小化する運転パターンを立案した。

さらに、落雷や鳥獣被害などでストップしない生産ラインの構築にも取り組んでいる。
異常が生じた際は、遮断機で重要負荷を瞬時に切り離し、途切れずに燃料電池とコージェネレーションによる自律運転に切り替える仕組みを採用した。
また、最も重要な負荷は、UPS(無停電電源)で保護している。

出所:富士電機

出所:富士電機

3.カーボンニュートラル達成目標を2027年に設定

スイスの半導体メーカー・STマイクロエレクトロニクスは、事業全体として2027年までのカーボンニュートラルの実現を目標に掲げている。
2021年には、2018年比で温室効果ガスを34%削減した。一方で、生産能力は同期間において拡大している。

再生可能エネルギーの積極的な導入を進めており、再生可能エネルギーを運用しているサプライヤーと長期契約を締結。
2022年には、再生可能エネルギーの使用率が62%に達した。

例えば、2021年にモロッコのブスクラ工場にて再生可能エネルギーの利用を拡大しており、同工場での再生可能エネルギー利用率が前年の1%から50%に向上している。

出所:STマイクロエレクトロニクス

出所:STマイクロエレクトロニクス

その他、同社のシンガポール工場では、パイプに冷水を通して設備を冷やす冷却装置を導入。
これにより、数百台の空調装置を代替することが可能となった。
CO2排出量を年間で12万トン削減できるという。同装置導入には3億7,000万ドルを投じた。

4.半導体気候関連コンソーシアムの立ち上げ

半導体業界団体のSEMIは、半導体業界全体として気候変動への対策を進めるべく、2022年11月に半導体気候関連コンソーシアム「SCC」(Semiconductor Climate Consortium)を設立した。

設立時に65社が参画。その後もメンバーが増加しており、2023年8月現在では21社を加えて合計86社となった。
ルネサス エレクトロニクスやソニーセミコンダクタソリューションズ、東京エレクトロンをはじめとした日本の半導体関連企業も多く参画している。

SCC(Semiconductor Climate Consortium) 出所:SEMI

SCC(Semiconductor Climate Consortium) 出所:SEMI

SCCは、

  • 半導体業界のバリューチェーンにおける温室効果ガス排出量削減に向けた共通のアプローチの元に協力して連携する
  • 活動の進捗状況やスコープ1、2、3のGHG排出量を毎年公に報告する
  • 短期および長期目標を設定し、2050年までに温室効果ガス排出量のネットゼロ達成を目指す

の3点をビジョンとして掲げている。

活動内容として、半導体産業の持続可能性を推進するための魅力的なアイデアを有するスタートアップや学者、イノベーターを選出する「Startups for Semiconductor Sustainability」を開催している。

2023年1月には、2年目のプログラムを開始。
水や廃棄物管理の循環技術、排出ガスを低減する技術、エネルギー効率を高める技術を有するスタートアップ9社がファイナリストに選出された。

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「カーボンニュートラルへの半導体メーカーの取り組み」についてアップさせて頂く。

今年の夏は異常な暑さを経験し、昨今の集中豪雨や氷河の崩壊等々、少なからずも多くの方々が地球温暖化を実感しているのではないだろうか?

地球規模の温暖化対策として、CO2等の温室効果ガス削減の取り組みが世界中で活発化しているが、今回はその取り組みの中でも半導体工場における先進的な取組事例を紹介している。

各社とも既に直近の5~7年間で、使用エネルギーを34%削減したり、温室効果ガスを1/3削減することを実現している。

更に、「FEMS」(Factory Energy Management System)の活用により、消費エネルギーの最小化やBCP対策の仕掛け、また再生可能エネルギーの積極的な導入等を進めており、大きな成果を挙げている。

半導体業界団体のSEMIは、半導体業界全体として気候変動への対策を進めるべく、2022年11月に半導体気候関連コンソーシアム「SCC」(Semiconductor Climate Consortium)を設立し、業界を挙げて温室効果ガス削減に向けた連携が進められている。

各企業単体や業界としての取り組みは少しずつ進んではいるが、我が国においても2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言している中で、世界をリードするような産官一体となった取り組みが期待される。

企業が生き残るためには利潤も当然必要ではあるが、その前の絶対的大前提として、人が快適に暮らしていける環境があってこそのことだと思う。

もう少し地球温暖化問題に対する世界中一人一人の意識が高まるような動きが出て来ないものだろうかと願うのみである。

例えば国連での必須議題だったり、メディア等で頻繁に報道するとか、、、。

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