TREND半導体業界トレンド情報
半導体業界トレンド情報
業界トレンド情報 第七弾『世界的な半導体不足、何故!?』
1.半導体不足の深刻化
2021年上半期より半導体不足が深刻化しており、各種メディアでも盛んに取り上げられている。
PCやスマートフォンなどのエレクトロニクス製品において、半導体不足が製造に影響するのは初めてのことではない。
しかし、今回は半導体不足が自動車業界にまで大きな影響を及ぼしており、自動車メーカー各社は減産を強いられている。
半導体はあらゆる家電製品に用いられており、産業のコメとも呼ばれるが、当然のことながら米のように気候によって不作が生じるわけではない。
それでは何故、2021年に入ってここまで半導体不足が深刻化したのだろうか。
2.コロナ禍による半導体需要増
主な理由としては、新型コロナウイルスの感染拡大が挙げられる。
2020年に世界規模で新型コロナウイルスの感染が拡大したことにより、多くの産業で需要の減退が見込まれることとなり、半導体業界も例外ではなかった。
このため、5G通信の本格化などのプラス要因はあったものの、半導体メーカー各社は設備投資の大幅増に踏み切ることはなかった。
しかし実際には、リモートワークの普及を含めた巣ごもり需要が急増したことにより、むしろ半導体需要が拡大している。
WSTS(世界半導体市場統計)が半年ごとに公表している世界半導体市場予測に関して、2020年6月時の予測値と2021年6月時の予測値との比較を上に示した。
2021年の予測値を見てみると、2020年6月時点では半導体の世界市場規模を4,520億ドル(前年比6.1%増)と予測していたのに対し、2021年6月時点では5,272億ドル(同19.7%増)と大幅に予測を上方修正していることが分かる。
3.ファンドリ企業に依頼が集中
このように、新型コロナウイルスの感染が世界規模で拡大し始めた当初の予測に反し、半導体需要が急増したことにより、台湾のTSMCを始めとしたファンドリ企業に半導体製造の依頼が殺到することとなった。
ファンドリ企業とは、半導体の受託製造に特化した企業を指す。
現在では、自社で設計から製造までを行うIDM(垂直統合型デバイスメーカー)に代わって、ファンドリを利用して半導体を製造する企業が一般的となっている。
自社で半導体工場を所有している企業であっても、一部もしくは大部分の製造をファンドリに委託するケースが多い。
ファンドリ各社の生産キャパシティは、5GやHPC(高性能コンピューティング)といった分野での需要が高まったことに加えて、予想外のコロナ禍による巣ごもり需要を受けて逼迫することとなった。
さらに、一時はコロナ禍により減退していた自動車需要が急回復し、車載半導体の製造依頼も殺到することとなる。
米国での新車の販売台数を見てみると、上記グラフの通り2020年第2四半期(4〜6月)に対前年同期比33.4%減と大きく落ち込んだものの、7〜9月では同9.4%減、10〜12月では同2.4%減と急回復していることが分かる。
トヨタ自動車を始めとする自動車メーカーは、必要なものを、必要なときに、必要なだけ調達する「ジャスト・イン・タイム」と呼ばれる方式を採用している。
これにより、自動車メーカーは販売台数が落ち込んだ時期に車載半導体の製造依頼を減少させた。
ファンドリ各社は発注減を受けて生産ラインを他用途向けの半導体製造に切り替えており、再び寄せられる車載半導体の製造委託を受け入れるキャパシティが不足していることが、現在の車載半導体不足、ひいては自動車製造の遅れに繋がっているものとみられる。
4.半導体不足解消の見通し
では、どうすれば半導体不足は解消に向かうだろうか。
現在の需要水準が今後も続くと仮定すると、半導体メーカーが設備投資を進めることで生産能力を増強させるほかないように思われる。
ファンドリ最大手のTSMCは、2020年にも過去最大規模の約172億ドルを設備投資に振り分けたが、2021年にはそれをも大幅に上回る最大300億ドル(前年比約1.7倍)の設備投資を計画している。
2021年4月には、中国・南京市の工場に新ラインを設けて車載半導体を増産する旨も発表した。
28億8,700万USドルを投じ、2023年の量産開始を見込む。
また、SEMI(国際半導体製造装置材料協会)は、2021年7月に発表した世界半導体製造装置の市場予測において、2021年は前年比34%増の953億ドルとなり、2022年には1,000億ドルを突破すると発表した。
このような半導体メーカーによる積極的な設備投資を受けて、半導体不足は将来的に解消に向かうものとみられる。
しかし、新たな工場やラインの設置には相応の時間を要するため、早急な需給バランスの正常化は難しい。
TSMCは2021年4月の決算報告会にて、スマートフォンなどの先端機器向けの半導体不足解消が2022年、車載半導体の不足解消が2023年になるという見通しを明らかにしている。
安部’s EYE
今回の記事は、「世界的な半導体不足の理由と解消の見通し」」について情報をアップさせて頂いた。
各種メディアでも度々取り上げられている“半導体不足”の問題であるが、改めて半導体が我々の生活に必要不可欠のものになっている事を立証した形となった感がある。
勿論、今回の問題を引き起こした理由は“新型コロナウイルスの感染拡大”にあるのだが、ここまで大きな問題に発展するとは誰も予想していなかった事だろう。
“先読み”の難しさは当然のことではあるが、生産活動における“無駄削ぎ”の進化も今回の問題が拡大された一因にもなっているのではないだろうか?
「在庫の削減」は生産活動においては常套手段ではあるが、中間在庫を持たないジャスト・イン・タイム方式は、今回のような事態にはBCPとして機能しきれない方式だったのかも知れない。
損益とBCPの関係を今後どのように構築していくかが、各社においての大きな鍵となって来るだろう。