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業界トレンド情報 第四十七弾  TSMC進出で加速する「九州シリコンアイランド」再興

業界トレンド情報 第四十七弾  TSMC進出で加速する「九州シリコンアイランド」再興

1.九州シリコンアイランドの誕生と背景

九州は、「シリコンアイランド」と称されるほど半導体産業が集積してきた地域だ。
1970~1980年代には、日系企業だけでなく海外企業も含めて数多くの工場が進出し、ウエハー工程や組立・検査など、半導体製造工程の各分野において活発な生産活動が行われてきた。

熊本県、鹿児島県、大分県、長崎県などに分散する工場群は、電機メーカーや自動車メーカーの関連子会社も多い。
地元大学との共同研究や地方自治体の支援も相まって、独自の産業クラスターを形成している。

このように九州が半導体関連拠点として発展した要因のひとつには、大都市圏と比べて土地価格が低く、工場用地を確保しやすいことが挙げられる。

また、周辺に豊富な水資源があること、さらに地元自治体が積極的に企業誘致を進めたことも大きい。
これらの条件が相まって、多くの企業が生産拠点を置き、下請け企業や協力会社も周辺に集まる形となり、サプライチェーン全体を強固に支える土台が築かれた。

2.九州に集積する主要半導体企業

近年、「シリコンアイランド」の呼び名をさらに強固なものにしているのが、TSMCの進出だ。
世界随一のファンドリ企業である同社は、熊本における大型投資を発表。

2024年12月に第1工場が量産を開始しており、2027年の竣工に向けて第2工場の工事にも着手している。
日本政府が支援に大きく舵を切っている背景には、世界的に半導体不足が深刻化する中、国内生産を増強し安定供給を図る狙いがある。

TSMC(日本法人名:JASM)熊本工場 出所:TSMC

さらに、ソニーグループやルネサス エレクトロニクスといった主要メーカーも九州で存在感を示している。
ソニーは熊本や鹿児島、長崎、大分にてイメージセンサーを生産しており、世界市場でも競争力が高い。

また、ルネサスは熊本県に大規模な生産拠点を構えており、マイコンやパワー半導体などの分野で自動車産業や産業機器向けの供給を担っている。
そのほか、東芝やロームもパワー半導体製造の一環で九州に投資を拡大するなど、幅広い企業が集積している。

3.広がるサプライチェーンの横のつながり

九州における半導体産業の特徴は、主要企業同士の横のつながりが強固である点だ。

たとえばTSMC熊本工場の立ち上げにあたっては、ソニーグループや自動車部品メーカーであるデンソーが出資、技術連携を行っている。
こうした形で、大手メーカーと地元企業、金融機関、自治体が連動し、一体となって工場立ち上げを支援する流れが加速している。

また、ウエハー加工やテスト工程を担う中小規模の受託企業や、材料・装置を供給する商社、設備保守・メンテナンスを担う地場企業の存在も重要だ。

大分や鹿児島、熊本などに点在するこれらの企業群は、製造工程の一部を受け持つだけでなく、技術者の育成や大学・高専との連携で人材確保に取り組んでいる。

半導体製造の工程は多段階にわたり、高度なクリーンルーム管理や細かな工程管理が不可欠だが、地元企業と大学が協力して新素材の開発研究を行うなど、単なる受注関係を超えた技術連携が進むことで、サプライチェーンの地力が強化されている。

大分高専とODTとの共同研究(2024年度) #3『オンラインミーティング』

4.行政・コミュニティとの連携と支援

九州シリコンアイランドを支えるもうひとつのカギは、自治体や地元コミュニティの連携だ。

熊本県や鹿児島県などの地方自治体は、企業誘致に向けた税制優遇策や補助金制度を整備し、人材育成の面でも積極的に支援を行っている。
近隣の大学や工業高等専門学校では、半導体工学や材料科学を専攻する学生が増え、早期から企業インターンシップを導入する動きがみられる。

また、熊本大学では、新たに半導体教育研究棟の立ち上げが進んでおり、今後半導体の開発や活用に関する研究教育がさらに加速する見通しだ。

熊本大学が建設を進める半導体教育研究棟 出所:熊本大学

また、特にTSMCの工場進出が決定して以降、地元の雇用創出や経済波及効果が注目を集めている。

九州フィナンシャルグループの試算によれば、TSMC熊本工場の立ち上げにより、2022〜2031年の10年間において総額で11兆1,920億円もの経済波及効果が生じる見込みだ。

行政と金融機関、そして企業が手を携え合い、研究開発費の捻出や産学連携プロジェクトを加速させることで、九州内の半導体クラスターとしての価値が一段と高まりつつある。

TSMC熊本進出による経済効果などに関する過去記事はこちら

5.まとめ

「九州シリコンアイランド」の呼称は、決して過去の遺産にとどまるものではない。

TSMCの進出や国内主要企業の設備投資が重なることで、かつての活気が再び取り戻されつつある。
自動車産業や家電産業だけでなく、IoTやAI、通信インフラといった幅広い分野で半導体需要が増大し、九州におけるサプライチェーン全体がますます重要度を増している。

また、地域に根ざした大学・高専の教育・研究機能や、自治体の制度的サポートが相互に連動することで、実践的な人材育成と安定的な投資環境が確立されつつある点も特筆すべきだ。

こうした取り組みが「横のつながり」をさらに深めることで、九州は今後も国内外の半導体サプライチェーンを支える一大拠点として進化を続けることだろう。

安部’s EYE

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「TSMC進出で加速する「九州シリコンアイランド」再興」と題してアップさせて頂く。

20世紀後半に世界を席巻したシリコンアイランド九州が、長い低迷期を経てTSMCの進出により再び脚光を浴びるようになって来たとの内容である。

低迷期には各社とも非常に厳しい時期があり経営の統廃合等も進んだが、核となる主要企業が撤退することなく存続してくれたお陰で、強固であった企業間連携の関係性が無くならずに残ったことが今回の再興に繋がっているのは紛れもない事実である。

大手や地場中小企業はそれぞれ独立企業体であり、企業間競争は当然の如く存在する訳だが、低迷期には“競争”から“共生”の考え方が広がり、企業間同士の情報交換や横連携が進んだことは、今となっては不思議な感覚さえある。

今回のTSMCの進出インパクトは、従来までの企業主体だけで対応するのが難しく、行政・コミュニティを巻き込んだ、これまで経験したことの無い動きになっている。

半導体産業を支える技術や産業、更には人材や物流など裾野の広さについて、業界関係者以外の多くの方が知って頂く機会になっているのは、個人的には嬉しい限りである。

「九州シリコンアイランド」の再興がオール九州からオールジャパンへ波及し、世界の半導体産業の重要拠点として再び脚光を浴びる日が来るように、全ての関係者の“共生”の輪を拡げていきたいものだ!

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業界トレンド情報 第四十六弾  半導体の歴史をたどる―トランジスタから最先端プロセスまで

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