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業界トレンド情報 第四十一弾 日本政府による国内半導体産業への支援動向

業界トレンド情報 第四十一弾 日本政府による国内半導体産業への支援動向

1.積極的な半導体産業支援を進める日本政府

日本政府は、国内半導体産業の競争力強化や安定した供給確保に向けて、積極的な支援や補助を進めている。
2021年度から2023年度の3年間で、半導体産業支援に向けて3兆9,000億円の補助金を支出することを決定した。

財務省の諮問機関である財政制度等審議会が示したところによると、半導体産業に対する米国の支援額が5年間で7兆1,000億円、ドイツが2兆5,000億円、フランスが7,000億円。金額としては米国が最も多くを支出しているが、対GDP比では日本が0.71%、米国が0.21%、ドイツが0.41%、フランスが0.2%となり、日本が最も大きな割合となった。

出所:財政制度等審議会の発表を基にODT作成
出所:財政制度等審議会の発表を基にODT作成

このように巨額の支援を進める意向の経済産業省と、財政規律を重視する財務省との間で緊張状態が生じているが、今後もAIや自動運転といったアプリケーションが拡大する見込みであり、世界的な競争力の維持、経済安全保障の観点から半導体産業への支援が続くものとみられる。 

2.TSMC熊本工場への支援

国内半導体産業の主な支援対象として挙げられるのが、TSMC(日本子会社はJASM)だ。
同社は熊本市菊陽町にてファンドリ工場の立ち上げを進めている。
第1工場は2024年2月に着工しており、2024年末の量産開始を目標としている。 

また、2025年1〜3月に第2工場の建屋建設にも着工する予定。
2027年末までの稼働開始を目指す。

第1工場と第2工場を合わせると、月間10万枚を超える生産能力に達する見込みだ。
合計で3,400人以上のハイテク専門職が雇用される予定となっている。
両工場には、日本政府からの支援を含めて200億ドル超が投じられる。

経済産業省は、熊本工場に対して最大1兆2,080億円もの支援を決定している。
2021〜2023年度に決定した半導体産業向けの3兆9,000億円の補助金のうち、実に3割強を占める。
このうち第1工場への補助額が最大4,760億円、第2工場への補助額が最大7,320億円となっている。

なお、九州フィナンシャルグループが2024年9月に試算したところによると、熊本工場の立ち上げにより、2022〜2031年の10年間において総額で11兆1,920億円もの経済波及効果が見込まれるという。

同グループが2023年8月に行った第2回の試算と比べて、2024年9月の第3回試算では予測総額が4兆3,402億円増加した。
第3回試算では第2工場の立ち上げを含めたものとなっており、金額が大きく増加している。

TSMCの熊本工場新設がもたらす経済波及効果予測 出所:九州フィナンシャルグループ
TSMCの熊本工場新設がもたらす経済波及効果予測 出所:九州フィナンシャルグループ

3.ラピダスへの支援法案

TSMCと並んで大きな支援対象となっているのが、2022年に設立されたRapidus(ラピダス)だ。
キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTT、三菱UFJ銀行の8社による出資を受けて設立した。

ラピダスの過去の記事はこちら

同社は、国内初となる2nmプロセス以下のロジックIC量産を目指している。
北海道千歳市にて新工場「IIM-1」の建設を進めており、2025年4月のパイロットライン稼働、2027年の量産開始を目標としている。

新工場「IIM-1」の完成予想図 出所:ラピダス

経済産業省は、同社に対して2022年度に最大700億円、2023年度に最大2,600億円、2024年度に最大5,900億円と合計で最大9,200億円を支援することを表明している。

一方で、量産に達するには5兆円規模の投資が必要との見込みで、さらなる支援が求められている状況だ。

このため、政府はさらなるラピダスへの支援関連法案の成立に向けた取り組みを進める意向となっている。
2025年の通常国会における成立を目指すものとみられる。

4.その他企業への支援

その他の企業に向けては、キオクシア・Western Digitalに最大2,430億円、Micron Technologyの広島工場に最大2,385億円、東芝・ロームのパワー半導体製造に最大1,294億円を支援することなどが決定している。

 また、生産に向けた支援に加えて、NTTの次世代半導体開発にも最大452億円を補助する。
具体的には、デバイス間の情報伝達を電気から光に置き換える光電融合素子の開発に向けたものだ。
同社が開発する次世代通信基盤「IOWN」の中核技術となるもので、政府は2029年までの5年間の研究開発を支援する。

IOWNとはInnovative Optical and Wireless Networkの頭文字を取ったもので、NTTが次世代インフラとして開発を進める通信基盤を指す。
上記の光電融合技術を用いた「オールフォトニクス・ネットワーク」に加えて、サイバー空間に人やモノを再現する「デジタルツインコンピューティング」、ICTリソースを全体最適化して必要な情報をネットワーク内に流通させる機能「コグニティブ・ファウンデーション」を三本柱としている。

安部’s EYE

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「日本政府による国内半導体産業への支援動向」についてアップさせて頂く。

2021年2月からスタートした半導体業界トレンド情報だが、早いもので今回で41回目の投稿となる。
これまでの投稿でも度々「各国負けない政府の支援が急務だ!」と訴え続けてきた訳だが、いよいよ本格的な支援が実行されようとしている。

本記事では3.9兆円の補助金が既に決定と書かれているが、2025年の通常国会にて更なる増額の法案成立を目指した計画が進められている。

財務省の諮問機関である財政制度等審議会の資料からの抜粋であるためアジア他国の情報は含まれていないが、欧米の他国と比較してもかなりアグレッシブな額となっている。

内訳としてはTSMC、Rapidus、キオクシア・Western Digital、Micron Technology、東芝・ローム、NTTと言った大企業向けで占められているが、ここまで特定の産業向けに政府が支援した前例は無く、半導体産業に対する経済安全保障の観点含めた世界的な競争力の維持について、“絶対に負けられない戦い”の火蓋が切られたことになる。

さて、ここからが重要なポイントになって来ると思われるが、この戦いを制するには①時間軸、②人材育成、③中小企業への支援強化の3点が挙げられると考える。

大企業が進める①、②の穴を埋めるのが地場中小企業の役割ではないかと認識する訳だが、その為にも③のタイムリーな支援が必要不可欠ではないかと強く思う次第だ。

大企業が担う役割、中小企業が果たせる役割、この役割が上手く噛み合ってこそ、“絶対に負けられない戦い”を制することが出来るのではないだろうか?

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業界トレンド情報 第四十弾 国内の半導体人材育成への取り組み

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