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  • 半導体業界トレンド情報#60

ヘルスケア・医療分野を変革する半導体:小型化と高信頼性を追求する技術

ヘルスケア・医療分野を変革する半導体:小型化と高信頼性を追求する技術
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1. 高齢化によって拡大する医療半導体の役割

世界的な高齢化に伴い、病気を発症してから治療する医療に加えて、日常的に健康状態を把握し、重症化を防ぐ予防医療の重要性が高まっている。WHO(世界保健機関)によると、世界の60歳以上の人口は2023年の約11億人から2030年には14億人に増加する見込みだという。

高齢者の増加は、心疾患、糖尿病、呼吸器疾患など、継続的な管理を必要とする慢性疾患の患者増加にもつながる。このため、病院での一時的な検査だけでなく、自宅や外出先で生体情報を連続測定し、異常の兆候を早期に把握する仕組みが求められている。

こうした医療の変化を支えているのが半導体だ。生体信号を検出するセンサー、微弱な信号を増幅するAFE(アナログフロントエンド)、データを処理するマイコン、通信IC、電源管理ICなどを組み合わせることで、小型の医療機器でも高度な測定や解析が可能になっている。

2. 常時測定を可能にするウェアラブル半導体

スマートウォッチやリング型端末、皮膚に貼り付けるパッチ型機器では、PPG(光電容積脈波)による心拍数や血中酸素飽和度の測定、心電図、体温、身体活動量など、複数の情報を同時に取得する方向へ開発が進んでいる。

一方、心電図などの生体信号は非常に微弱であり、身体の動き、周囲の光、電磁ノイズ、装着位置のずれなどによって測定精度が低下する。そこで、半導体内部で生体信号と加速度データを組み合わせ、ノイズや動作の影響を補正するセンサーフュージョンが重要となる。

例えばSTマイクロエレクトロニクスは2024年、バイオセンサー「ST1VAFE3BX」を発表した。生体電位信号を検出するAFEと3軸加速度センサーに加え、機械学習コアやステートマシンを2mm角のパッケージに集積している。

生体電位と身体の動きを同期して取得できるため、体動と信号変化の関係を踏まえた解析が可能。また、活動状態の判定など一部の処理をセンサー内で実行することで、ホストマイコンの処理負荷を軽減できる。これにより、ウェアラブル機器の低消費電力化や応答時間の短縮に寄与するという。

ST1VAFE3BX 出所:STマイクロエレクトロニクス
ST1VAFE3BX 出所:STマイクロエレクトロニクス

今後はAFE、A/Dコンバーターや信号処理回路、無線通信、電源管理機能を一つのSoCや小型パッケージに集約する動きが一段と進むことが予測される。部品数と基板面積を削減できれば、装着時の負担を軽減するとともに、接続部分の減少による信頼性向上にも寄与することとなる。

3. 植込み型医療機器に求められる低消費電力

心臓ペースメーカーや人工内耳、神経刺激装置といった植込み型医療機器では、半導体の小型化が患者の負担や手術の侵襲性の軽減に直結する。専用ASICにセンシング、演算、刺激制御、通信などを集積すれば、汎用部品を組み合わせる場合よりも機器を小さくできる。

また、体内では電池交換が容易ではないため、平均消費電力を極限まで抑える必要がある。このため、必要なときだけ回路を動かす間欠動作、低電圧での演算、イベント発生時のみ起動するセンサー、超低消費電力無線などが有用となる。外部から電磁誘導や超音波で電力を供給するワイヤレス給電も、電池の縮小や機器寿命の延長につながる技術として開発が進んでいる。

半導体の小型化は、経口摂取型センサーにも応用されている。imecが2025年に公表した消化管センサーは長さ2.1cm、直径0.75cmで、酸化還元状態やpH、温度を体内で測定可能。従来のカプセル内視鏡の約3分の1の大きさ(体積比)で、24時間から最長1週間にわたる測定を想定している。

経口摂取型消化管センサー 出所:imec
経口摂取型消化管センサー 出所:imec

4. 診断精度を高める半導体技術

大型診断装置でも半導体技術の進歩が医療を変えつつある。代表例がフォトンカウンティングCTだ。従来のCTがX線を一度可視光に変換するのに対し、フォトンカウンティングCTでは半導体検出器がX線光子を電気信号へ直接変換し、光子ごとのエネルギーを測定する。

エネルギー帯ごとの情報を保持できることから、物質によるX線吸収特性の違いを画像に反映しやすく、微細構造の描出や組織・物質の識別性能向上が期待される。また、一定のしきい値を下回る信号を除外することで、電子ノイズの影響を抑えられる点も特徴だ。必要な画質をより少ない線量で得られる可能性があり、診断情報の高度化と被ばく低減の両立に向けて実用化が進んでいる。

キヤノンは2026年4月より、フォトンカウンティングCT装置「Ultimion(アルティミオン)」を国内にて販売開始した。同装置では、テルル化亜鉛カドミウム(CZT)を用いたフォトンカウンティング検出器を採用。高いX線検出能力や線量効率を備えたという。また、大容量データ転送技術により、1回のスキャンで高分解能画像とスペクトラル画像を同時に取得でき、複数の物質の弁別にも対応する。

フォトンカウンティングCT装置「Ultimion」出所:キヤノン
フォトンカウンティングCT装置「Ultimion」出所:キヤノン

このほか、CMOSイメージセンサーによる内視鏡の高画質化や、半導体チップ上で化学反応を電気信号へ変換する遺伝子解析も実用化されている。半導体は診断装置を制御するだけでなく、病変や生体分子そのものを検出する中核部品になっている。

5. 小型化以上に重要となる高信頼性

医療用半導体では、処理速度や省電力性能だけでなく、一貫して正しい測定値を得られることが不可欠となる。回路の自己診断や誤り訂正、電源異常の監視、温度補償、冗長化などを組み込むことで、単一箇所の故障が患者の安全を脅かさない設計が求められる。

医用電気機器には基礎安全および基本性能を定めるIEC 60601-1、医療機器のライフサイクル全体でリスクを管理するISO 14971などが適用される。また、通信機能を持つ機器では不正操作や情報漏洩も安全上のリスクとなりうる。

今後の医療半導体には、小型化や低消費電力に加えて、測定精度、セキュリティ、長期供給を同時に成立させることが求められる。これらの技術が進展することで、医療が病院内での検査を中心としたものから、日常生活の中で健康状態を継続的に把握し、異常を早期に発見する仕組みへと変化していくことが期待される。

安部’s EYE

安部’s EYE

今回のトレンド情報は、「ヘルスケア・医療分野を変革する半導体:小型化と高信頼性を追求する技術」についてアップさせて頂く。

半導体が、我々の生活に欠かすことが出来ないものであることは、これまでも何度も述べてきた訳だが、今回の記事では医療半導体について書かれており、正に生命においても欠かすことが出来ない領域まで半導体が関与して来ていることが読み取れる内容になっている。

高年齢の人口が増加してくる今後の医療においては、「予防医療」や「未病のケア」が重要になって来ることは言うまでもないことである。

スマートウォッチやリング型端末、皮膚に貼り付けるパッチ型機器等で代表される“ウェアラブル”半導体や、心臓ペースメーカーや人工内耳、神経刺激装置といった“植込み型医療機器”や“経口摂取型センサー”に用いられる半導体は、これから益々身近なものになって来ると思われる。

またCTで代表されるような大型診断装置等においても、半導体技術の進化で診断情報の高度化と被ばく低減の両立に向けて実用化が進んでいる。

今後の医療半導体には、小型化や低消費電力に加えて、測定精度、セキュリティ、長期供給を同時に成立させることが求められる訳だが、改めて半導体技術の進化は絶対的に必須であることを痛感させられた次第だ!

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