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業界トレンド情報 第十弾『国内大手半導体メーカーのパワー半導体戦略』

1.世界市場で競争力を有する国内のパワー半導体メーカー

EV、HEV向けパワー半導体は、EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)、家電、FA(ファクトリー・オートメーション)といったさまざまなアプリケーションにおいて需要が高まっており、今後のさらなる市場成長も予測される。
また、世界市場において日本国内の半導体メーカーが競争力を維持しているほか、SiCやGaNといった次世代パワー半導体の実用化も進むなど、注目度の高い市場となっている。

そこで今回は、パワー半導体を手掛ける国内大手メーカーとして、三菱電機、富士電機、東芝の事業戦略を紹介する。

2.三菱電機

三菱電機は、5つの重点成長事業の1つにパワーデバイスを位置づけている。
2021年6月に開催した2021年度 経営戦略説明会において、2020年度のパワーデバイス(IGBTモジュール)売上高1,480億円を2025年度に2,400億円以上とする計画を発表した。
営業利益率も、2020年度の0.4%から2025年度には10%以上に高める。

目標達成に向けて、電動化が進む自動車分野と省エネのためのインバーター化が進む民生分野に注力している。

自動車分野では、自動車パワーモジュール「J1」シリーズを戦略製品に位置づけて拡販を図る。J1シリーズは、最新世代の薄厚化IGBTチップや冷却フィン⼀体型構造のケースを採用しており、小型・軽量である点を特長とする。
2020年度で19%を占めるJ1シリーズの製品比率を、2025年度に47%に高める。

J1シリーズ 出典:三菱電機

J1シリーズ 出典:三菱電機

また、EV普及に向けてSiCに対する取り組みを強化する。SiとSiCを使い分けることにより、⼩型から⼤型まで顧客のニーズに合わせたラインアップを提供し、事業の強化を図る。

民生分野では、エアコン圧縮機市場においてIPM「SLIMDIP」を戦略製品に位置づけた。
同社独自のRC-IGBT構造を採用しており、低損失・小型化を特長とする。
エアコンファンや洗濯機ファン、冷蔵庫市場では、表面実装タイプのIPM「SOPIPM」を戦略製品とした。
2020年度で35%を占めるこれら戦略製品の製品比率を、2025年度には70%に高める。

SLIMDIP 出典:三菱電機

SLIMDIP 出典:三菱電機

3.富士電機

富士電機は、電装分野(自動車)および産業分野向けのパワー半導体を提供している。

2023年度中期経営計画では、2023年度の半導体売上高目標を2018年度比で約57%増の1,750億円とした。
中でも自動車分野に注力しており、売上比率を2018年度の28%から2023年度に50%とする方針としている。
また、海外への売上比率も57%から61%に高める。

自動車分野向けでは、電動車(EV・HEV)市場の拡大に合わせてIGBT製品の拡販を図っている。
また、新製品の立ち上げも進めており、需要の拡大と相まって先述の中期経営計画から2年前倒しの2021年度に、自動車分野の売上比率が50%に達する見込となった。

EV、HEV向けIGBTモジュール「6MBI800XV-075V-01」 出典:富士電機

EV、HEV向けIGBTモジュール「6MBI800XV-075V-01」 出典:富士電機

産業分野向けでは、エアコン市場向けに第7世代IGBTを適用した大型パッケージ品、再生可能エネルギー市場向けにRC-IGBTを適用した大容量系列製品を投入して売上拡大を図っている。

また、SiCの開発も進めており、従来型のパッケージに加えて一般産業・再生可能エネルギー向けや電鉄向けのパッケージも追加した。
第1世代と比較して損失を23%抑えた第2世代トレンチMOSFETも提供しており、市場の拡大を図る。

設備投資では、2019年度から2023年度の5年間で1,200億円を電子デバイス向けに投じる計画としている。
2014年度から2018年度までの5年間の設備投資額は658億円となっており、約1.8倍の規模となる。

前工程では、8インチラインを2018年比で3倍の生産能力に増強する。
また、後工程では自動車用IGBTやディスクリート、産業用IGBTの生産能力を高め、海外における生産能力をさらに拡大する。

4.東芝

東芝は2021年11月、インフラサービス事業とデバイス事業をそれぞれ新規上場会社としてスピンオフする方針を発表した。
新たに発足する2会社は、それぞれ2023年下期の上場完了を目標とする。

パワー半導体は、デバイス事業新会社の注力領域として位置づけられる。
2023年度の売上高は1,200億円を目標とした。2021年度の950億円(見込)から年平均13%の成長率となる。

12インチウエハラインを中心に設備投資を実施する計画で、2021年度から22年度にかけて760億円の設備投資額を見込んでいる。
利益に寄与するのは、主に2024年度以降になるという。

車載・産業機器や各種電源、モーター駆動といった用途に注力し、高効率なパワーMOSFETの拡販やラインアップの拡充に努めるほか。中華圏での販売も強化する。

車載向けの100V耐圧NチャネルパワーMOSFET「XPW4R10ANB」「XPW6R30ANB」「XPN1300ANC」 出典:東芝

車載向けの100V耐圧NチャネルパワーMOSFET「XPW4R10ANB」「XPW6R30ANB」「XPN1300ANC」 出典:東芝

さらに、SiCやGaNといった化合物半導体の開発を積極的に進める。
SiCは高圧直流送電や大型モーター、GaNはサーバーなどの高効率電源や急速充電などの小型電源といった用途を見込む。
エピ成長装置・技術を活用し、独自のデバイス構造開発を目指す。
また、大口径化やモジュール化を図る。

安部’s EYE

今回の記事は、「国内大手半導体メーカーのパワー半導体戦略」について情報をアップさせて頂いた。

記事にある通り、国内大手半導体メーカーにおいても、パワーデバイスの強化が大きな戦略として掲げられている。
半導体事業全体の中でも、明確にパワー半導体分野への経営資源の投下について発表されており、いよいよ本格的に開発~生産の競争の火蓋が切られた状況だ。

元々パワー半導体分野は、今回の記事にあるような国内大手半導体メーカーが技術的にも強みとして保有していた分野であるが、海外メーカーはΜ&Aにより一気に世界シェアを奪取して来ており、これからの本格的な巻き返しを期待したいところだ。

国内各社とも、『車載向けパワー半導体』を当然の如く視野に入れているが、チップ側の前工程とパッケージ側の後工程が両方成立してこそ最終製品になることから、この部分のハンドリングを如何に進めるかが大きなポイントになって来るだろう。

また今回の記事に挙げた企業以外でも多くのメーカーが同分野への参入の意思表示をされている。
競争の激化は容易に想像される中、国内メーカー同士の共倒れだけは絶対に回避する事を願いたい!

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