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業界トレンド情報 第十五弾『FCV(燃料電池自動車)の特徴と市場動向』

1.FCV(燃料電池自動車)とは

FCV(燃料電池自動車)とは、水素と酸素の化学反応で得た電力を用いて走行する自動車を指す。

電気によりモーターを回転させて走行するという点ではEV(電気自動車)と同じだが、EVが外部の電力を用いてバッテリーを充電するのに対し、FCVでは車内で発電した電力を用いる点が大きな違いとなる。

FCVでは、ガソリンや電気の代わりに圧縮した水素の補給が必要となる。
専用タンクに充填した水素が酸素と化学反応することで、電気と水が生じる。
発生した電気は車の動力として用いられ、有害物質や汚染物質などを含まない水のみが排出される。
このため、究極のエコカーとして称されることも多い。

バッテリーへの充電に時間を要するEVと異なり、FCVで用いる水素は短時間で充填できる点もメリットとなる。
また、航続距離も長い。

2021年5月にトヨタの欧州法人がFCV「MIRAI」を用いて行った実験では、1回の水素充填で1,000km超の走行に成功している。

FCV「MIRAI」 出所:トヨタ自動車

FCV「MIRAI」 出所:トヨタ自動車

加えて、ガソリン車と比較すると、エンジンの振動や排気による騒音がないのもFCVの特長となる。

2.FCVの普及に向けた課題

上述のように、FCVは環境面や性能面で大きなメリットを有している一方で、現状では普及に至るまでの課題も多い。

一つには、車両価格が高いことが挙げられる。MIRAIを例に取ると、販売価格は最も安価なもので710万円(税込)。
ホンダが2021年9月までリース専用車として販売していたFCV「クラリティ FUEL CELL」も、価格は約784万円(税込)となっていた。
燃料電池にレアメタルが必要となるため製造コストが上がり、同等クラスのガソリン車やHV(ハイブリッド車)と比較するとかなり高価となっている。

また、水素ステーションの数が少ないことも大きなデメリットとなる。
EVでも充電ステーションの不足が普及への障壁となっているが、水素ステーションはそれと比較してもさらに少ない。

イワタニ水素ステーション 尼崎 出所:岩谷瓦斯

イワタニ水素ステーション 尼崎 出所:岩谷瓦斯

次世代自動車振興センターが公表しているデータによると、2022年1月時点での水素ステーションの数は全国で157箇所。
このうち首都圏が58箇所、中京圏が45箇所、関西圏が19箇所、九州圏が14箇所、その他の地域が21箇所となっている。

なお、現状では世界各国の中で日本が最も多くの水素ステーションを有している。

その他でも、水素の価格が高い、パワートレインのエネルギー効率でEVに劣る、水素の製造過程でCO2が発生してしまうといった点が課題として挙げられる。

今後の技術開発の進展や、国を挙げた普及への取り組みなどが期待される。

3.FCV市場の現状と予測

富士経済が2022年2月に発表した燃料電池システム世界市場の調査結果によると、FCV向け燃料電池システムの世界市場規模は2021年度で対前年度比38.9%増の775億円(見込、以下同じ)となった。

日本は世界全体と比較して成長率が高く、同55.8%増の120億円となっている。アジアは同33.9%増の458億円となった。

同社は2025年度以降、世界的な脱炭素化や環境規制などの政策を受けてFCVの普及が急加速するものとみており、2035年度には全世界で138.0倍(2020年度比、以下同じ)の7兆7,014億円、アジアで125.7倍の3兆3,335億円、日本で97.5倍の9,679億円の市場規模に到達すると予測した。

燃料電池システムの市場予測 出所:富士経済のプレスリリースを基に作成

燃料電池システムの市場予測 出所:富士経済のプレスリリースを基に作成

2021年度は、トヨタが2020年12月にリリースした新型MIRAIが、日本や北米、欧州で好調な売れ行きとなった。
また、現代自動車のFCV「NEXO」も米国や韓国にて前年度を上回るペースで販売されている。

富士経済は、今後の市場活性化のキーポイントとして、中国や欧州の自動車メーカーの参入を挙げている。

中国では、広州汽車がSUVタイプのFCV「AionLX FC」の実証実験を行っており、その他でも複数の企業が市場参入の意向を明らかにしている。

欧州でも、BMVが2022年度にSUVタイプのFCVを少量生産する予定となっている。
トヨタと共同開発した燃料電池システムを採用したもので、2021年にプロトタイプによる公道での試験走行を実施した。
その他の欧州メーカーも、FCVの開発を進めている。

車両価格の高さがFCV普及への課題となっていることは先述の通りだが、富士経済は2025年以後に各自動車メーカーが量産モデルを上市することで、現在のEVの車両価格(300〜400万円)と同程度かそれ以下の価格水準になると予測した。

なお、富士経済は2021年10月、日本国内の水素関連市場の調査結果も発表している。
FCV向けの水素燃料の市場規模は、2021年度で対前年度比約40.0%増の7億円(見込)となっており、2035年度は約91.0倍(2020年度比)の455億円と予測した。

4.FCV普及に向けた国内政策

FCVの普及に向けて、経済産業省は2019年4月に新「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を発表した。

新「水素・燃料電池戦略ロードマップ」 出所:経済産業省

新「水素・燃料電池戦略ロードマップ」 出所:経済産業省

2025年にFCVの販売台数20万台、水素ステーションの設置数320箇所を、2030年にFCVの販売台数80万台、水素ステーションの設置数900箇所を目指す。

FCVとHVの価格差およそ300万円を、2025年には70万円に引き下げる目標を立てている。
主要システムでは、燃料電池の価格約2万円/kWを5,000円/kWに、水素貯蔵コストの約70万円を30万円に下げるとした。
徹底的な規制改革と技術開発に取り組むとしている。

水素ステーションでも、整備費や運営費、構成機器のコスト低減を目指す。
また、土日営業の拡大やガソリンスタンド、コンビニ併設ステーションの拡大などを図る。

水素ステーション整備に向けては、整備費用やその他の費用を補助すべく、「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備 事業費補助金」を設けている。

2021年度の予算額は110億円となった。
四大都市圏等を結ぶ幹線沿いを中心に水素ステーション の整備を進めるほか、FCVの潜在的な需要が高いにも関わらず、ステーション整備が進んでいない地域での整備も進めるとしている。

安部’s EYE

今回の記事は、「FCV(燃料電池自動車)の特徴と市場動向」について情報をアップさせて頂いた。

前回の「車載用リチウムイオン電池と、開発が進む全固体電池」に続き、自動車向け電力供給に関する内容になっている。

脱炭素社会実現に向けて自動車の電動化は急務であり、ここに来ての大幅な円安によるガソリン価格の高騰は、電動自動車への切り替え機運の追い風になっていると思われる。

しかし記事にある通り、車体本体価格が高額であることと、エネルギー供給体制が未整備である等の理由から、普及については今一つの感が否めない。

今回ご紹介するFCVは、日本が世界に先駆けて開発した技術であり、非常に面白いものと思われるが、いざ自分自身で購入するか?と問われると、現時点では二の足を踏む状況である。

日本や海外等の国家間、更には企業間の競争もあり、今後の市場への電動化自動車の普及は様々な思惑が入り乱れることになると思われるが、今一度“我々の地球”と言った観点で、脱炭素社会実現に向け、世界が一つになった取り組みをする時期ではないのだろうか、、、。

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