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業界トレンド情報 第十三弾『電気自動車市場の動向』

1.電気自動車へのシフトが進む世界各国

世界各国では、脱炭素化社会に向けてEV(電気自動車)へのシフトが進められており、日本政府も2035年までにガソリン車の新車発売を禁止する方針を打ち出している。
一方で、日本ではまだまだ町中の充電スタンドの数が少ないなど、EVの本格的な普及が進んでいるとは実感しづらい状況にもなっている。

諸外国や日本では、EVは現状でどの程度普及しているのだろうか?
今回は、世界各国における電気自動車の普及状況や政策について紹介する。

2. 米国

環境シンクタンクのICCT(国際クリーン交通委員会)が発表したデータによると、米国での2020年の新車販売において、EV(PHEV:プラグインハイブリッド車を含む)が占める割合は約2.4%となっている。
2019年は約2%であったため、およそ1.2倍となった。

米国における自動車メーカー別EV売上推移 出典:ICCT

米国における自動車メーカー別EV売上推移 出典:ICCT

特に2018年以降は、TeslaのEVが全体の半分以上の販売台数を占めた。
その他では、フォルクスワーゲンやトヨタ、GMなどの販売台数が比較的多くなっている。

カリフォルニアやニューヨークなど一部の州では、一定以上のゼロエミッション車両販売を自動車メーカーに義務づけるZEV(Zero Emission Vehicle)規制を設けている。
ZEV規制を設けた州では、新車に占めるEVのシェアは5%となっており、規制がない州の1.3%と比較して4倍弱となった。
ZEV規制を設けた州が、2020年の米国のEV販売台数の約3分の2を占めたという。

州別の新車販売に占めるEVの割合 出典:ICCT

州別の新車販売に占めるEVの割合 出典:ICCT

また、EVの普及率が高い大都市圏では、通行料削減や駐車料金無料化といった州や市による推進活動が盛んに行われていたほか、公共および職場での充電スタンドの設置率も高かった。
最も普及率の高い10の地域では、人口100万人あたり935の公共充電器が設置されていたほか、人口100万人あたり430の職場でも充電器が利用可能となっていた。

なお、バイデン大統領は2021年8月、2030年までに販売される新車(乗用車および小型トラック)の半数以上を、EVおよびFCV(燃料電池車)とする大統領令を発令している。

3. 欧州

ACEA(欧州自動車工業会)が公表しているデータによると、欧州における2020年のEV(PHEV、FCV、EREV:エクステンデッド・レンジEVを含む)の販売台数は104万5,831台となった。
2019年の38万7,808台から約2.7倍に増加している。
特に2020年10〜12月では、EVの販売台数が初めてハイブリッド車を上回ったという。

新車販売に占めるEVの割合では、2019年が3.0%、2020年が10.5%となっており、3.5倍に急増した。

欧州における2020年の新車販売の車種別割合 出典:ACEA

欧州における2020年の新車販売の車種別割合 出典:ACEA

2019年と2020年の新車販売台数比較 出典:ACEA

2019年と2020年の新車販売台数比較 出典:ACEA

このように欧州においてEVの普及が急速に進んでいる原因としては、CO2排出量規制や研究開発への助成金、購入支援策などが挙げられる。

中でも直接的に最も大きな原因となったのは、CAFE(企業間平均燃費)規制の強化だ。
EUは、以前より自動車メーカーに対して、域内で販売した新車のCO2排出量の平均値上限を走行1kmあたり130gに抑えるように義務付けていたが、 2020年にこれを95gに引き下げた。
達成できなかったメーカーは、1台ごとに1g当たり95ユーロ(約1万2,000円)の罰金が科せられる。

自動車メーカー各社にとって、強化されたCAFE規制はかなり厳しい要求内容となっている。
自動車産業の調査会社・JATOが発表したデータによると、年間30万台を売り上げている大手自動車メーカーで、2018年に販売した新車のCO2排出量平均が2020年基準を満たしている企業は一社も存在しない。

販売した新車のCO2排出量平均(2018年)と規制値との比較 出典:JATO

販売した新車のCO2排出量平均(2018年)と規制値との比較 出典:JATO

あくまで2018年の値ではあるが、強化されたCAFE規制に基づいて罰金を計算すると、多くの企業に巨額のペナルティが課せられることとなる。
中でもフォルクスワーゲンは約92億ユーロとなり、これは同社の2020年の収益121億5,000万ユーロのおよそ4分の3に相当する。

2018年に販売した新車のCO2排出量平均から算出した罰金額 出典:JATO

2018年に販売した新車のCO2排出量平均から算出した罰金額 出典:JATO

EUは2021年7月、2030年の温室効果ガス排出量を2019年と比較して55%以上削減するための政策「Fit for 55」を発表した。
さらに2035年には、EU圏内でのエンジン車販売を禁止する方針を打ち出しており、目標達成に向けて厳格な施策も辞さない姿勢を鮮明にしている。

4. 中国

中国汽車工業協会が発表したデータによると、2020年のNEV(新エネルギー車。EV、PHEV、FCVを指す)の販売台数は136万7,000台。前年比では10.9%増となっている。
新車の販売台数に占めるEVの割合は5.4%となった。

中国政府は、NEV規制とCAFC(企業間平均燃費)規制を設けてEVの普及に努めている。

NEV規制は、自動車メーカーに一定割合のNEVの販売を義務付けるものだ。
ガソリン車を製造・販売した際はマイナスポイントが課せられ、NEVの製造販売で得られるポイントで穴埋めする必要がある。

また、CAFC規制はEUのCAFE規制と同じく、販売する車の年間平均燃費を定めたものとなっている。

両規制のポイントは互換可能となっており、NEV規制のマイナスポイントをCAFC規制のプラスポイントで補うといったことが認められている。

中国汽車工程学会は2020年10月、2035年までに新車の50%をNEVとし、残りの50%をエンジン駆動車からHV(ハイブリッド車)に切り替える計画を発表している。
現状既に世界最大のEV市場となっている中国においても、以後ますますEVの販売台数が増加するものとみられる。

5. 日本

日本自動車販売協会連合会が発表しているデータによると、2020年のEVの販売台数が1万4,604台、PHEVが1万4,741台、FCVが761台で、合計3万106台となっている。
2019年は合計3万9,633台で、約24%減となった。

販売された新車に占めるEV、PHEV、FCVの割合は、2019年が約0.6%、2020年が約0.9%となった。
微増しているものの、先述の諸外国と比較すると小さな割合に留まっている。

日本政府は2021年1月、冒頭に記載した通り2035年までにガソリン車の新車発売を禁止する方針を打ち出している。
ただし、HVは認可するとした。

また、経済産業省は2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定した。
2021年6月には改訂版を発表している。

この中で、2030年までに急速充電器3万基の設置を目指すとした。
現状の4倍の数となる。
また、税制面での優遇や研究開発への支援策も盛り込んでいる。

日本では現状、先述の諸外国のような厳しい規制は設けられていない。
各国・各地域での厳格な規制が事実上EV市場を牽引している状況となっており、今後日本においても2035年の目標達成に向けてどのような政策が立案されるか注視する必要がある。

安部’s EYE

今回の記事は、「諸外国や日本における電気自動車市場の動向」について情報をアップさせて頂いた。

記事にある通り、米国・欧州・中国の全てにおいて、2020年度の新車販売台数におけるEVの占める割合は2019年度比で大きく増加に転じている。

一方、残念ながら日本だけは24%の減少となっており、他国と比較しても異質な結果となっている。

今や世界各国において脱炭素社会の実現に向けた取り組みは必須かつ急務となっており、自動車におけるEVシフトについても、国家主導で具体的な数値目標を掲げ、その実現に向けての各種規制や政策が発表されているが、日本については具体性の面で正直他国に対する遅れが気になるところである。

本業界トレンド情報も今回の記事で13回目となるが、私がコメントする安部’s EYEにおいて既に幾度となく国家主導の部分について、他国に比べた日本の政策の具体性やスピード面における懸念を書かせて頂いたが、残念ながら今回も同様の感想である。

このままでは脱炭素社会の実現においても、世界の負け組になってしまうのではないかと本気で警笛を鳴らしたい!

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